- 2025年6月20日
胃がんの初期症状とは?早期発見のために知っておきたい胃がんの症状、原因、検査

「最近、食後でもないのにげっぷがよく出るんです。胃がむかむかする感じもあって…。年のせいかなと思うんですが、胃がんなんかだと怖いなと思って。」
このようなお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか? げっぷや胃のむかむかは食べ過ぎや加齢でも起こりやすい症状ですが、実は胃がんでも起こりうる症状です。
胃がんは、日本人にとって非常に身近ながんの一つです。2019年のデータでは、胃がんの罹患数は男性が約8.5万人、女性が約3.9万人と非常に多く、男性ではがん罹患数第3位、女性では第4位を占めています。残念ながら2021年の死亡数でも、男性で約2.7万人(がん死亡数第3位)、女性で約1.4万人(がん死亡数第5位)と、依然として高い水準にあります。
しかし、以前に比べてがん検診を受ける方が増えたり、胃がんの主な原因であるピロリ菌の検査・除菌治療が進んだりしたことで、胃がんで命を落とす方の数は減少傾向にあります。これは喜ばしいことですが、だからといって油断はできません。
食事の欧米化やストレス社会において、胃の不調を感じる方も多いのではないでしょうか。「胃もたれかな?」「ストレスのせいかな?」と思われるような軽い症状が、実は胃がんのサインである可能性も潜んでいます。
今回は、この胃がんについて、特に早期発見・早期治療につなげるために知っておきたい「症状」「原因」「検査」についてお伝えします。
胃がんとは、どんな病気?

胃は、食道と十二指腸の間に位置する袋状の臓器で、口から入った食べ物を一時的にため込み、胃酸や消化酵素を含む胃液と混ぜ合わせることで消化し、少しずつ十二指腸へと送り出す役割を担っています。「胃袋」ともいうように、胃は食物を溜めて消化する役割を担う臓器です。胃の壁は内側から粘膜、筋層、漿(しょう)膜といういくつかの層が重なってできています。
胃がんは、この胃の内側をおおう粘膜の細胞ががん化したものです。がん細胞は増殖するにつれて、徐々に粘膜から筋層、漿膜へと胃壁の外側へ深く広がっていきます。さらに、がん細胞が漿膜の外側まで達すると、胃の近くにある大腸や膵臓、横隔膜、肝臓などの臓器にも直接広がったり、リンパ節や血液に乗って離れた臓器に転移したりする可能性があります。
胃の部位によってもがんの発生しやすい場所があります。胃の出口にあたる幽門部や、胃がんが比較的見つかりやすい胃角部、食道との境目の噴門部(近年は「食道胃接合部がん」の発生が増加傾向にあります)などが挙げられます。みぞおちあたりに違和感がある場合、それは胃の異常を示している可能性も考えられます。
胃がんの組織型と進行速度
胃がんは、組織型によって大きく3つのタイプに分けられます。
- 分化型胃がん: 進行スピードが比較的緩やかで、がん細胞が比較的まとまっているのが特徴です。
- 未分化型胃がん: 進行スピードが早く、がん細胞がまとまらずにバラバラと増殖するのが特徴です。
- スキルス胃がん: 胃がん全体の約10%を占め、進行の速いがんとして知られています。 胃の粘膜表面の変化が少なく、胃壁全体が硬くなって伸展しにくくなるのが特徴で、未分化型であることが多いです。このタイプは発見されたときには転移しているケースも多く、治療が特に難しいがんです。(肉眼型分類4型)
一般的に、分化型よりも未分化型のほうが、進行スピードが速い傾向があり、スキルス胃がんはその中でも特に進行が早いです。
胃がんの初期症状は?「自覚症状が出てからだと手遅れ」なのか?
「胃に違和感があるけれど、胃がんならどんな症状が出るんだろう?」「症状が出てからではもう遅いって聞くけれど…」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、胃がんは初期にはほとんど自覚症状がありません。 また、進行してからもあまり症状が出ないケースも存在します。
つまり、症状に気づいて医療機関を受診し胃がんが発見されたときには、すでにかなり進行している可能性があるということです。しかも、胃がんの代表的な症状のほとんどは、食べ過ぎや刺激物の摂り過ぎなどで現れる一時的な急性胃炎などでも同様に見られます。これが、症状に気づきながら受診を後回しにしてしまう原因にもなっています。
「症状が出てからでは手遅れ」とは言い切れませんが1、早期発見・早期治療のためには、症状のないうちから、あるいは軽い症状が続いた段階で、胃カメラ検査などを受けることが大切になります。 早期に見つかれば治療効果が高く、胃がんの5年生存率は90%以上となります。
胃がんの主な初期症状5選
胃がんの初期症状と考えられているのは、以下の5つが挙げられます。これらの症状は胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎など、胃がん以外の病気でも同様に現れることが多いため、胃がん独自の初期症状とは言い切れません。 「最近食べ過ぎたかな?」「ストレスのせいかな?」と自己判断して様子を見てしまうことが、胃がんの発見を遅らせる原因にもなります。
- 胸やけ・食欲不振: 「胸が焼ける感じがする」「気持ち悪い」と感じるのが胸やけです。胸やけの原因は、胃酸が何かの原因で逆流して食道に達し、食道の粘膜を傷つけるからです。胃酸の過剰分泌や、食道と胃のつなぎ目にある筋肉(下部食道括約筋)の緩みなどが原因となります。胸やけを感じていると、食欲は出ず、食事ものどを通りにくくなります。
- 胃の痛み: 「ズキズキ」「キリキリ」「キューっと差し込むような」など、痛み方が異なります。胃がんに関しては「シクシク」や「キリキリ」、または違和感があると受診される場合が多いです。空腹時に痛む場合は胃炎や胃潰瘍の可能性もあります。
- 体重が減る: 胃部不快感や痛みにより食事が摂れず、体重が減少します。体重が減るほど症状が強い場合は、胃炎や胃潰瘍よりも深刻な病気を疑う場合が多いです。胃部不快感で食欲が落ちているだけと思わず、体重減少がある場合は受診しましょう。
- 食べ物が飲み込みづらい(嚥下障害): 食道から胃に食べ物を送る筋肉の動きの衰えや、逆流性食道炎などで喉に炎症が起きている、あるいはがんなどのできものに食道が圧迫されているなどが原因で起こることがあります。胃がんだけでなく、食道がんや咽頭がん、喉頭がんなどの喉や気管にできるがんでも起こる可能性があります。
- 黒色便: 便の色は、茶褐色が正常であり、黒色や赤色、白色などは身体に何かしらの異常があるサインです。黒色便は、主に食道・胃・十二指腸など上部消化管のどこかに出血があり、古くなった血液が胃酸と触れることで黒くなり、便と混じって排出されている可能性がありまるものです。腹痛や食欲不振がないにもかかわらず、便だけ黒いという場合もあるため、黒色便が出ている場合は受診しましょう(貧血治療で鉄剤を内服している場合は、副作用で黒色便になることがあります)。
げっぷやおならは胃がんの初期症状?
「げっぷがよく出るのは胃がんの前兆だったりするんでしょうか?」「おならがよく出るのも胃がんと関係ある?」というご質問をよくいただきますが、げっぷやおならは、基本的に胃がんを直接の原因として現れることはありません。
ただし、胃がんが進行すると、食物が通りづらくなって胃などの消化管に食物が溜まるようになり、みぞおち辺りが重苦しかったり、げっぷがよく出るようになったりすることはあります。また、胃がんの進行によって消化不良が続き、おならが増えることも考えられます。しかし、これらは胃がんの「前兆」や「初期症状」として考えにくいでしょう。
げっぷやおならが気になる場合は、食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、呑気症などが考えられます。どちらも生理現象であり、過度に心配する必要はありませんが、「最近げっぷ(おなら)が増えたな」と感じたときには、消化器疾患を疑い、お早めに消化器内科を受診することをおすすめします。
胃がんにかかりやすい人の特徴とリスク要因

胃がんは日本人男性のかかるがんの中でもっとも罹患数の多いがんです。特に男性は女性の約2~3倍胃がんになりやすいと言えるでしょう。
胃がんの発症は50歳を過ぎると徐々に増加し、80歳代で罹患率が最も高くなります。
胃がんの発症リスクを高める最大の要因は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染です。ピロリ菌が胃の粘膜に棲みつくと、胃の粘膜の萎縮や腸の細胞への変化(腸上皮化生)を引き起こし、胃・十二指腸潰瘍、そして胃がんなどの原因となります。ピロリ菌に感染しているだけでは特に自覚症状がないため、感染に気づかないことも少なくありません。ピロリ菌に感染しているかは、胃内視鏡検査(胃カメラ)や血液検査、尿検査、呼気検査(尿素呼気試験)などでわかります。胃がん検診で胃内視鏡検査を受けることは、胃がんの発見だけでなく、ピロリ菌感染の発見にも繋がります。
そのほかに、以下の生活習慣も胃がんの発症リスクを高めると考えられています。
- 年齢が50歳以上: 胃がんは40代から増え始め、特に男性では60代以降、急激に罹患数が増えます。
- 塩分の過剰摂取: 塩分の摂り過ぎは、胃がんのリスク因子となります。特に、いくら、塩辛、練りうになど、非常に塩分濃度の高い食品を頻繁に食べる人ほどリスクが高くなることがわかっています。
- 喫煙: 喫煙は多くのがんのリスクを高めますが、胃がんのリスクも、喫煙者は非喫煙者に比べて1.6倍高いことがわかっています。
- 肥満: 国立がん研究センターの報告によると、BMIが27以上の男性は胃がんに罹患する危険性が高いことが分かっています。肥満はインスリンの過剰分泌や炎症性物質の分泌により細胞を傷つけ、がん化を促進するおそれがあります。
- ストレス: ストレスが原因で胃炎や胃潰瘍になることは有名です。ストレスは胃粘膜を傷つけ、がんになる危険性を高める可能性があります。
- 遺伝的な要因: CDH1遺伝子やBRCA1・BRCA2遺伝子など、特定の遺伝子の病的な変化によって胃がんが発生しやすくなることがわかっています。さらに、遺伝的な要因にピロリ菌の感染が重なると、胃がんのリスクがさらに高くなることが明らかになっています。血縁者に胃がんの既往(家族歴)がある場合には、そうでない人よりも胃がんの発症リスクが高くなると言われています。
肥満、塩分の摂り過ぎ、ピロリ菌感染、喫煙、過度の飲酒、ストレスはいずれも排除できるリスク要因です。つまり、日々の生活習慣や適切な医療介入によって、胃がんの発症リスクを抑えることが可能です。
胃がんの進行度と検査・診断方法

胃がんの進行度は、がんが胃壁のどの層まで達しているか、そしてリンパ節や他の臓器への転移の有無によって、ⅠA期からⅣ期までの全8段階に分類されます。
- 早期胃がん: 胃の粘膜下層までの胃がんです。胃壁の浅い層だけを侵し、リンパ節転移がほとんどないため、治癒率が90%以上と非常に高いのが特徴です。がん検診・健康診断・人間ドックを契機に診断された症例のうち、80%以上がステージIAであることから、胃がんの早期発見には定期的な検診受診が重要であることがわかります。胃がんは発がんから3~4年は進行速度が遅く、ゆっくり少しずつ広がっていくとされています。
- 進行胃がん: 胃の粘膜下層よりもさらに下にある筋層にまで達したがんを指します。粘膜下層へ広がると、進行が速くなってしまいます。進行胃がんは胃の全層を貫通し、大腸や膵臓、横隔膜、肝臓などへと浸潤したり、リンパ液・血液を介して遠く離れた臓器に転移したりすることが多く、治療が難航しやすくなります。スキルス胃がんの場合は特に進行が速く、発見時に腹膜などへの転移が確認されるケースも少なくありません。胃がんの5年相対生存率を見てみると、Ⅰ期は90%以上と高いですが、Ⅱ期で70%程度、Ⅲ期で40%程度となり、Ⅳ期では5%程度です。スキルス胃がんに限定すると、5年生存率は約10~15%とさらに低くなります。
検査・診断方法
自覚症状の少ない胃がんを早期に発見するためには、症状に気づいたときはもちろんですが、症状のないうちから、定期的に胃カメラ検査を受けることが大切になります。
主な胃がんの検査には以下のものがあります。
- 胃内視鏡検査(胃カメラ): 口や鼻からカメラを入れて食道から胃、十二指腸の中をビデオ映像で直接粘膜を観察できるため、色調や形態のわずかな変化も捉えやすく、小さながんの発見に優れています。胃をほとんど死角なく観察できることから、胃がんのより確実な発見のためには、胃カメラ検査をおすすめします。また、特殊な光や薬剤を使って病変部を強調したり、疑わしい組織を採取して病理組織検査(生検)を行ったりすることが可能です。
- 胃部X線検査(バリウム検査): バリウムを飲んだ上でX線で胃部を観察します。胃粘膜の凹凸を確認し広範囲をスクリーニングできる一方で、どうしても死角が発生してしまうため、胃がんなどの病変を見逃してしまうことがあります。バリウム検査で異常が認められた場合は、胃カメラによる精密検査が指示されることが多いです。
- 血液検査: 胃がんがある場合に上昇する「CEA」や「CA19-9」といった腫瘍マーカーの数値を調べることがありますが、初期の胃がんでは上昇しないこともあったり、反対に良性でも上昇したりするため、参考のために確認されることが多いです。 また、「胃がんリスク層別化検査(ABC検査)」という、ピロリ菌感染の有無と胃粘膜の萎縮度を調べて胃がんになるリスクを判定する採血検査もあります。自分の胃がんのリスクを知っておくことで、適切な胃がん検診の頻度やタイミングを知るのに役立つでしょう。
- 画像検査(CTやMRI、PET検査): リンパ節転移や他の臓器への転移の有無、がんの広がりなどを詳細に調べます。
胃がんの予防と定期検診のすすめ

胃がんの罹患数は多いものの、死亡数は減少傾向にあります。これは、早期発見・早期治療の重要性が認識され、検診受診者が増えていることの表れです。
胃がんの予防には、以下のポイントが挙げられます。
- ピロリ菌の検査・治療: 胃がんの原因の大半はピロリ菌と言われています。ピロリ菌を持っているかどうかは、尿素呼気試験、便中抗原検査、血中抗体血液検査などで確認できます(どの検査方法が適切か医師に相談しましょう)。ピロリ菌が発見された場合、1週間程度の薬の内服で除菌治療が可能です。除菌後も、感染していた胃粘膜の炎症部位や萎縮してしまった粘膜部位の経過を見るために、定期的に胃カメラによる経過観察が必要です。
- 禁煙: タバコには発がん性物質が含まれており、喫煙は百害あって一利なしです。ご自身の健康だけでなく、受動喫煙によって周りのご家族の健康も害する可能性があります。禁煙外来なども活用し、速やかに禁煙しましょう。
- 適度な運動: 適度な運動は、肥満防止やストレス解消効果があり、胃がんだけでなくその他のがんの予防にも効果的です。無理なく継続できる範囲で、散歩や通勤手段の工夫、家でのストレッチなど、日常生活に運動を取り入れてみましょう。
- 食生活の見直し: 塩分の多い食事は胃を刺激し、がんにつながりやすいです。塩の代わりにレモンや柑橘類、香辛料、酢などを使う、調味料を食事中に置かない、みそ汁やラーメンの汁を飲み干さないなど、減塩を意識した食生活を心がけましょう。また、野菜に含まれるカリウムは塩分を体外へ排出してくれるため、積極的に摂取しましょう。
そして何より、胃がんの早期発見には定期的な検診が不可欠です。
- 検診のタイミング: 市町村の胃がん検診では、50歳以上では年1回、バリウム検査と胃カメラ検査のどちらかを選べます。また、40歳以上50歳未満では胃部エックス線検査を年1回受けられます。この年代の方は、胃がんのリスク要因となるピロリ菌に感染していることも多いため、ピロリ菌検査も同時に受けるとなおよいでしょう。 リスクが低い方であっても、胃もたれや胸やけなど気になる症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。定期的に健康診断を受けることで、胃がんだけでなく、生活習慣病やその他の隠れた病気の早期発見にもつながります。
胃がんは、早期の段階では自覚症状が少なく、見過ごされやすい病気です。しかし、定期的な胃カメラ検査や生活習慣の改善、ピロリ菌除菌などの対策を行うことで、早期に発見し、治療成果を大きく向上させることが可能です。ご自身の胃の健康を守るためにも、リスクを把握し、適切なタイミングで検診を受けることを強くお勧めします。
※胃がんについて、一般的に記載しています。
胃癌取り扱い規約とは少し表現が異なる所があります事をご了承ください。
正式な分類は以下となります。
スキルスは肉眼的分類の一つとなり、その組織型として多いものが低分化癌、未分化癌となります。
組織型分類:
・良性上皮性腫瘍 腺腫
・悪性上皮性腫瘍 (一般的にがんと呼ばれるもの)
1)一般型
- 乳頭腺癌
- 管状腺癌 (高分化/低分化)
- 低分化腺癌 (充実型/非充実型)
- 印鑑細胞癌
- 粘液癌
2)特殊型
- カルチノイド腫瘍、内分泌細胞癌、肝様腺癌、腺扁平上皮癌
- 扁平上皮癌 未分化癌