- 2025年4月24日
機能性ディスペプシアを克服するために:食事療法・運動・ストレス管理のポイント

「胃がもたれる」
「みぞおちが痛む」
「少し食べただけですぐお腹がいっぱいになる」
… こんな胃の不快な症状に悩まされているのに、病院で胃カメラなどの検査を受けても「特に異常なし」と言われた経験はありませんか?
もしかしたら、それは「機能性ディスペプシア(FD)」かもしれません。

機能性ディスペプシアは、潰瘍やがんなどの明らかな病気がないにも関わらず、胃の機能(動きや知覚)に問題が生じ、つらい症状が現れる病気です。日本人の10人に1人以上が悩んでいるとも言われ、決して珍しい病気ではありません。生命に関わる病気ではありませんが、日常生活の質(QOL)を大きく低下させてしまうことがあります。
機能性ディスペプシアの治療には、お薬による対症療法も大切ですが、根本的な改善や再発予防のためには、ご自身の生活習慣を見直すことが非常に重要です。特に「食事」「運動」「ストレス管理」は、症状改善のためにご自身で取り組める大切な3つの柱となります。
このブログでは、機能性ディスペプシアの克服を目指す方へ、今日から実践できる食事療法・運動・ストレス管理の具体的なポイントを、分かりやすくご紹介します。
食事療法のポイント:胃に優しく、バランス良く、規則正しく

機能性ディスペプシアの症状は、食事の内容や食べ方によって大きく左右されることがあります。胃への負担を減らし、健やかな消化をサポートする食生活を心がけましょう。
意識して避けたい食品・習慣

- 高脂肪食: 揚げ物や脂身の多い肉、バターや生クリームを多く使った料理などは、消化に時間がかかり胃もたれの原因となりやすいです。
- 刺激物: 香辛料(唐辛子、胡椒など)、炭酸飲料、カフェインを多く含むもの(コーヒー、濃い緑茶、エナジードリンクなど)、酸味の強い食品は、胃を刺激したり胃酸の分泌を増やしたりすることがあります。
- アルコール: 胃の粘膜を直接刺激するため、症状を悪化させる可能性があります。飲む場合も適量を守りましょう。
- 早食い・ドカ食い: よく噛まずに急いで食べたり、一度に大量に食べたりすると、胃に大きな負担がかかります。空気も一緒に飲み込みやすく、お腹の張りの原因にもなります。
心がけたい食べ方

- ゆっくり、よく噛んで食べる: 唾液の分泌を促し消化を助けるとともに、満腹感も得やすくなり食べ過ぎを防ぎます。一口30回程度を目安にしましょう。
- 腹八分目を意識する: 「もう少し食べたいな」と思うくらいでやめておくのが、胃への負担を減らすコツです。
- 規則正しい時間に食事をとる: 1日3食、なるべく決まった時間に食べることで、消化器官のリズムが整いやすくなります。特に夕食は就寝の2~3時間前までに済ませ、夜遅い時間の食事は避けましょう。
- 食後すぐの行動に注意: 食べてすぐに横になったり、入浴したり、激しい運動をしたりするのは避け、少し休憩する時間を持ちましょう。
胃に優しい食事のヒント

- 消化の良い炭水化物(おかゆ、うどん、パンなど)
- 脂肪の少ない良質なタンパク質(白身魚、鶏ささみ・むね肉、豆腐、卵など)
- 加熱して柔らかくした野菜(食物繊維が豊富なものも、摂りすぎるとお腹が張る場合があるので、ご自身の体調に合わせて調整しましょう)
- 温かい飲み物(白湯、麦茶、ハーブティーなど)も、胃腸の動きを助けることがあります。
運動のポイント:無理なく、楽しく、継続的に
「胃の調子が悪い時に運動なんて…」と思われるかもしれませんが、実は適度な運動は機能性ディスペプシアの改善に役立つことがわかっています。
運動がもたらす良い効果

- ストレス解消: 身体を動かすことは、気分転換やストレス発散に非常に効果的です。
- 自律神経の調整: 適度な運動は、胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。
- 消化管の動きをサポート: ウォーキングなどの軽い運動は、腸の蠕動運動を促し、便通改善にもつながることがあります(便秘もFDの症状を悪化させる要因の一つです)。
どんな運動が良い?

- ウォーキング: 最も手軽に始められ、継続しやすい運動です。景色を楽しみながら、少し汗ばむ程度を目安に行いましょう。
- 軽いジョギング、水泳、サイクリング: 無理のない範囲での有酸素運動は、全身の血行を促進し、気分もリフレッシュさせてくれます。
- ヨガ、ストレッチ、太極拳: 深い呼吸を意識しながら行う運動は、リラックス効果が高く、自律神経を整えるのにおすすめです。
運動する上での注意点

- 食後すぐは避ける: 食後は消化のために胃腸に血液が集まっています。最低でも食後1時間程度はあけてから運動しましょう。
- 無理は禁物: アスリートのような激しいトレーニングは、かえって体に負担をかけ、ストレスになることもあります。「気持ちが良い」「楽しい」と感じられる範囲で行うことが大切です。
- 継続することが大切: 短期間で効果を求めず、週に数回でも良いので、無理なく続けられる運動習慣を見つけましょう。
ストレス管理のポイント:上手に付き合い、心と体を休ませる
機能性ディスペプシアの発症や悪化には、精神的なストレスが深く関わっていることが指摘されています。私たちの脳と腸は「脳腸相関」と呼ばれる密接なネットワークでつながっており、脳が感じたストレスが腸の機能に影響を与え、逆に腸の不調が脳に伝えられて不安感を増幅させる、という相互作用があるのです。
ストレスと上手に付き合うために

- ストレスの原因を知る: まずは、自分が何に対してストレスを感じているのかを客観的に見つめてみましょう。
- 完璧主義を手放す: 「~ねばならない」「完璧にこなさないと」という思考は、自分を追い詰めてしまいがちです。少し肩の力を抜いて、「まあ、いいか」と思える心のゆとりを持ちましょう。
- 自分なりのリラックス法を見つける: ストレスをゼロにすることは困難ですが、溜め込まないようにすることが大切です。音楽鑑賞、読書、映画鑑賞、アロマテラピー、友人との会話、自然に触れるなど、自分が心からリラックスできる方法を見つけ、意識的に時間を作りましょう。
- 休息を大切にする: 忙しい毎日の中でも、意識的に休憩時間を設け、心身を休ませることが重要です。
質の高い睡眠を確保する

- 規則正しい睡眠リズム: 毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きることを心がけましょう。体内時計が整い、自律神経のバランスも安定しやすくなります。
- 快適な睡眠環境: 寝室の温度や湿度、明るさ、音などを調整し、リラックスして眠れる環境を作りましょう。
- 寝る前の過ごし方: 就寝前のカフェイン摂取や、スマートフォン・パソコンなどの強い光を浴びることは避け、読書や軽いストレッチ、温かい飲み物などでリラックスする時間を持つのがおすすめです。

機能性ディスペプシアの症状改善には、特効薬がない場合も多く、「なかなか良くならない…」と焦りを感じることもあるかもしれません。しかし、今回ご紹介した「食事」「運動」「ストレス管理」といった生活習慣の見直しは、薬物療法と並行して行うことで、症状の改善や再発防止につながる可能性があります。
大切なのは、完璧を目指すのではなく、無理のない範囲で、できることから少しずつ、そして継続していくことです。ご自身の体調と相談しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。
そして、最も重要なことは、自己判断せずに必ず消化器内科などの医療機関を受診し、医師に相談することです。まずはお腹の症状の原因を特定するために、適切な検査を受けることが不可欠です。
その上で、もし様々な検査を受けても明らかな異常が見つからない場合、機能性ディスペプシア、つまり消化管の動き(機能)や吸収の問題が考えられます。 ご自身の状態に合った治療やアドバイスを受けることが、回復への第一歩となります。機能性ディスペプシアに対する治療法は、胃の動きを調整するお薬や漢方薬など様々ですので、症状にお困りの方はぜひ一度受診の上でご相談ください。適切な治療法を一緒に探していきましょう。
なお、機能性ディスペプシアと診断された場合でも、定期的な経過観察は重要です。症状が続く場合などは、6か月から1年以内を目安に再度検査を受け、悪性の病気などが隠れていないかを確認することをお勧めします。
一人で悩まず、私たち専門家のサポートも得ながら、根気強く機能性ディスペプシアと向き合っていきましょう。