- 2025年4月8日
他人事ではない食道がん – 石橋貴明さんの公表を受けて知っておきたい症状・原因と早期発見の重要性
こんにちは。
兵庫県明石市のJR大久保駅すぐの「たなか内科クリニック」です。
先日、お笑いコンビ「とんねるず」の石橋貴明さんが、初期の食道がんを患っていたことを公表されました。幸い早期に発見され、治療を受けられたとのことです。このニュースをきっかけに、「食道がん」について関心を持たれた方も多いのではないでしょうか。
近年、食生活の欧米化や喫煙・飲酒習慣などにより、日本でも食道がんの罹患率が増加傾向にあると言われています。食道がんは、初期段階では自覚症状がほとんどなく、気づいた時には進行しているケースも少なくありません。しかし、早期に発見し適切な治療を行えば、根治も十分に可能です。
この記事では、食道がんのリスク、症状、検査、そして治療法について解説します。ご自身の健康を守るため、そして大切な人のために、食道がんについての正しい知識を深めていきましょう。
食道がんの主な原因
食道がんの発生には、いくつかの要因が関与していますが、特に重要なのが飲酒と喫煙です。
飲酒と喫煙

これらは食道がんの2大リスク因子であり、両方の習慣がある方は、リスクが相乗的に高まることがわかっています。ある研究データによると、飲酒も喫煙もしない人に比べて、リスクがどれだけ高まるかが示されています。
下咽頭、食道癌のリスクと飲酒、喫煙習慣
(出典:Takezaki et al., Cancer Causes Control 11:597-608, 2000)
喫煙習慣なし | 30箱-year以上の高度喫煙群 | |
飲酒習慣なし | 1倍 | 3.9倍(1.3~11.8) |
日本酒換算1日あたり1.5合以上の飲酒 | 8.2倍(2.4~27.7) | 29.9倍(10.9~81.9) |
数値はオッズ比 (95%信頼区間)
このデータからも分かるように、1日に日本酒換算で1.5合以上飲酒し、かつヘビースモーカー(30箱-year以上※)の方は、どちらの習慣もない人に比べて食道がんのリスクが約30倍にも跳ね上がるのです。
(※箱-year:1日の喫煙箱数 × 喫煙年数)
お酒を飲むと顔が赤くなるタイプ(フラッシャー)の方は、アルコールの分解酵素の働きが弱く、発がん性物質であるアセトアルデヒドが体内に溜まりやすいため、特に注意が必要です。
その他のリスク因子
・熱い飲食物の摂取:熱いお茶や食べ物を頻繁に摂る習慣は、食道の粘膜を繰り返し傷つけ、がんのリスクを高める可能性があります。 ・食習慣:野菜や果物の摂取不足もリスク因子とされています。 ・逆流性食道炎:胃酸が食道へ逆流する状態が長く続くと、食道粘膜が炎症を起こし(バレット食道)、がん化のリスクが高まることがあります。 |
食道がんの症状

食道がんの最も厄介な点は、初期にはほとんど自覚症状がないことです。
がんが進行するにつれて、以下のような症状が現れることがあります。
・食べ物を飲み込んだ時の違和感、つかえ感 ・胸の奥(胸骨の後ろあたり)の痛み、しみる感じ ・声のかすれ(嗄声:させい) ・咳 ・体重減少 |
これらの症状は、食道がん以外の病気でも起こりえますが、思い当たる症状がある場合は、決して放置せず、早めに消化器内科や専門医を受診してください。
食道がんの検査・診断

食道がんの発見・診断に最も重要な検査は胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)です。
- 胃カメラ検査: 口または鼻から細いカメラを挿入し、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察します。がんが疑われる部位があれば、組織の一部を採取(生検)し、病理検査でがん細胞の有無を確定診断します。特殊な光(NBIなど)を用いて微細な病変を見つけやすくする技術も進歩しています。
- その他の検査: がんの広がりや転移の有無を調べるために、バリウムを用いた食道造影検査、CT検査、PET検査などが行われることもあります。
食道がんの進行度(ステージ)
がんの進行度は、治療方針を決定する上で非常に重要です。食道がんの進行度は、主に以下の3つの要素で決まります。
- 深達度: がんが食道の壁のどの深さまで達しているか。
- リンパ節転移: 食道の周りにあるリンパ節への転移があるか。
- 遠隔転移: 肺や肝臓など、食道から離れた臓器への転移があるか。
【がんの深さと早期がん・進行がん】
食道の壁は、内側から粘膜層(粘膜上皮:EP、粘膜固有層:LPM、粘膜筋板:MM)、粘膜下層、固有筋層、外膜という層構造になっています。
- 早期がん: がんが粘膜層または粘膜下層にとどまっている状態。
- 進行がん: がんが固有筋層より深く達している、またはリンパ節や他の臓器に転移している状態。

EP:epithelium
LPM:lamina propria mucosae
MM:muscularis mucosae
【内視鏡治療の可能性】
早期がんの中でも、特にがんが粘膜上皮(EP: Epithelium)または粘膜固有層(LPM: lamina propria mucosae)までにとどまっており、リンパ節転移の可能性が極めて低いと考えられる場合(ステージ0や一部のステージI)、内視鏡(胃カメラ)による切除でがんを完全に取り除き、根治を目指せる可能性があります。これは体への負担が少ない治療法です。
つまり、いかに早く、浅い段階でがんを発見できるかが、治療法の選択や予後に大きく関わってくるのです。
食道がんの治療法
食道がんの治療は、がんの進行度(ステージ)、患者さんの全身状態、年齢などを考慮して総合的に決定されます。
- 内視鏡治療(ESDなど): 上記のように、リンパ節転移のない早期がん(主に深達度がEP、LPMまで)が対象です。口や鼻から挿入した内視鏡を使って、がんを含む粘膜を剥ぎ取ります。体への負担が少なく、食道を温存できるメリットがあります。
- 外科手術: がんが内視鏡治療の適応を超えて進行している場合や、リンパ節転移がある(または疑われる)場合の標準的な治療法です。食道と胃の一部を切除し、リンパ節も郭清(切除)します。再建手術も同時に行われます。
- 化学療法(抗がん剤治療): 抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃する治療法です。手術前後の補助療法や、切除不能な進行がん、再発がんに対して行われます。
- 放射線治療: 高エネルギーの放射線をがんに照射して、がん細胞を破壊する治療法です。単独で行われるほか、化学療法と組み合わせて(化学放射線療法)行われることも多いです。手術が難しい場合や、手術後の再発予防としても用いられます。
- 化学放射線療法: 化学療法と放射線治療を同時に行う治療法で、手術をしない場合の根治を目指す治療や、手術前の補助療法として行われます。
予防と早期発見のために
食道がんを予防し、万が一かかってしまった場合でも早期に発見するためには、以下の点が重要です。
- 禁煙・節酒: 最大のリスク因子である喫煙と過度な飲酒を控えることが最も効果的な予防策です。
- 食生活の見直し: バランスの取れた食事を心がけ、野菜や果物を十分に摂取しましょう。熱すぎる飲食物を頻繁に摂るのは避けましょう。
- 定期的な検診: 特に50歳以上の方、飲酒・喫煙習慣のある方、お酒で顔が赤くなる方、逆流性食道炎のある方などは、症状がなくても定期的に胃カメラ検査を受けることを強くお勧めします。
たなか内科クリニックの胃カメラ検査の特長
特長1.経口内視鏡と経鼻内視鏡の選択が可能

当院では、患者様のご希望に合わせて、口から挿入する経口内視鏡と、鼻から挿入する負担の少ない経鼻内視鏡のどちらかをお選びいただけます。
特長2.鎮静剤を使用した苦しくない胃カメラ検査

「カメラは苦しい」というイメージをお持ちの方もご安心ください。ご希望に応じて鎮静剤を使用し、うとうとと眠っているようなリラックスした状態で検査を受けていただくことが可能です。
特長3.夕方18時頃までの検査予約が可能

お忙しい方にも検査を受けていただきやすいよう、平日は18時頃までの検査予約を承っておりますので、お仕事帰りにもお立ち寄りいただけます。
特長4.胃カメラと大腸カメラの同日検査

大腸カメラ検査との同日実施も可能ですので、一度で効率よく検査を済ませたい方にもおすすめです。
食道がんの早期発見のために、ぜひ胃カメラ検査をご検討ください。検査をご希望の方は、WEBまたはお電話にてご予約をお願いいたします。
気になる方はお早めに検査を
食道がんは、喫煙や飲酒などの生活習慣と深く関わっており、初期症状が出にくいがんです。しかし、早期に発見すれば治癒の可能性が高い病気でもあります。以下に当てはまる方は、ぜひ一度、胃カメラ検査を受けることをお勧めします。
・食道がんのリスク要因(喫煙、飲酒、熱いもの好きなど)がある方 ・40歳を過ぎた方 (食道がんの好発年齢に近づくため) ・胸の違和感や飲み込みにくさなど、少しでも気になる症状がある方 |
※早期の食道がんの場合、自覚症状はありません。定期検査で偶然発見されることがほとんどです。特に上記記載の通り、喫煙+飲酒の方はリスクが高いと考えて良いでしょう。
以前は食道がんの発見のためにリスクの高い方には内視鏡から食道にヨードと言う液体を散布して発見することもありましたが、検査後に胸やけや痛みが出たり、検査中の誤嚥(気管に液が流れ込むこと)が問題となっていました。近年は内視鏡機器の進歩に伴い、画像強調(BLIやNBI等)を行うことでヨード染色を行わなくても発見できるようになりました。
食道がんは早期であれば胃カメラを用いて切除が可能な場合が多いですが(入院期間は1週間程度)、進行がんの場合は放射線+抗がん剤治療を1-2か月入院で行った後に、外科手術を行うことが多いです。手術時間も長時間となり(がんの部位によっては開胸・開腹とも必要となります)、術後合併症のリスクもあります。
小生もこれまで食道がんの内視鏡的切除だけでなく、進行がんに対する放射線治療や抗がん剤治療も行っていました。進行がんの場合、どうしても治療は長期に及び仕事のことや家族の事で悩まれるケースもありました。
喫煙・飲酒歴のある方で胃カメラを受けたことが無い方は一度ご検討をお願いします。