- 2025年1月28日
- 2025年1月30日
胃酸の逆流を抑えるために:逆流性食道炎(GERD)
逆流性食道炎とは
逆流性食道炎(GERD: Gastroesophageal Reflux Disease)は、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流し、粘膜に刺激や炎症をもたらす疾患です。症状の程度には個人差がありますが、放置するとバレット食道(がん前病変)に進行し、最終的には食道がんへ移行するリスクが高まることが知られています。
日本では人口の約10~15%が本疾患に影響を受けていると推計されており、先進国での脂肪分の多い食事や肥満の増加に伴い、有病率は上昇傾向にあります。
逆流性食道炎の症状と原因
逆流性食道炎は、胃酸が食道へ逆流することで粘膜が損傷し、炎症が生じる疾患です。その原因と症状は以下の通りです。
主な原因
- 胃酸逆流の慢性化: 胃酸が長期間食道へ逆流することで粘膜が損傷し、正常な扁平上皮が円柱上皮に置き換わる可能性があります。過剰な飲酒や喫煙が胃酸の逆流を助長する要因となります。
- LES(食道下部括約筋)の機能不全: 括約筋がうまく閉まらない体質に加え、肥満、妊娠、喫煙、アルコール摂取、ストレスの影響により、括約筋の機能が低下し胃内容物が逆流しやすくなります。
- 生活習慣の影響: 高脂肪食や過剰な食べ過ぎ、夜遅い食事、ストレス過多が胃酸の分泌を促進し、粘膜に負担をかける要因となります。また、薬(特に非ステロイド性抗炎症薬: NSAID)の使用も胃粘膜の防御機能を低下させることがあります。
- 逆流性食道炎との関係: 慢性化した逆流性食道炎が進行すると、バレット食道に移行することが多いため、逆流や炎症を早期に抑えることが予防につながります。
代表的な症状
- 胸やけ: 胸部が焼けるように感じられる。
- 呑酸: 酸っぱい液体や苦い液体が喉元に上がってくる。
- 喉の違和感: のどの奥につかえがあるように感じる。
- 慢性の咳: 胃酸が食道のすぐ横の気管を刺激し、長引く咳の原因となる。
- 嗄声(声がれ): 胃酸による声帯の刺激で声がかすれる。
- 嚥下困難: 食道狭窄が進行すると食べ物の通過が難しくなる。
- 胸痛: 症状が進むと激しい痛みを伴い、心臓疾患との鑑別が必要になる場合も。
これらの症状は食後や横になった際に悪化しやすく、アルコールや喫煙、薬の使用、ストレス管理、過剰な飲食の見直しが重要です。
生活習慣とのかかわり
肥満の影響
- おなかまわりの脂肪が胃を圧迫し、胃酸が逆流しやすくなる
- 肥満の人は痩せた人に比べ、GERDリスクが2倍以上になると指摘されている
食生活の要因
- 高脂肪食や揚げ物、炭酸飲料は胃酸分泌を高め、逆流の発生率を上昇させる
- 夜遅い食事や早食いは胃に大きな負担をかけ、症状悪化につながりやすい
ストレスとの関連
- ストレス過多は胃酸の過剰分泌や下部食道括約筋(LES)の弛緩を促進
- ストレスによる過食などでさらに生活習慣が乱れ、悪循環を引き起こす
姿勢やライフスタイル
- 食後すぐに横になることで重力による逆流が起こりやすくなる
- 不規則な就寝・起床や食事時間の乱れは胃腸機能を低下させ、GERD発症リスクを高める
検査・診断方法
胃カメラ(上部内視鏡検査)
- 食道粘膜の炎症やびらん、潰瘍の有無を直接観察
- バレット食道や悪性疾患の早期発見に役立つ
- 胃炎や胃潰瘍など、他の病気との鑑別も可能
24時間pHモニタリング・食道内圧検査
- 食道内pHを一日中記録し、胃酸の逆流回数や逆流時間を測定
- 下部食道括約筋(LES)の機能や収縮状態を確認し、重症度を評価
その他の検査
- CTやMRI:ほかの消化器疾患を除外するために実施
主な治療法
薬物療法
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸分泌を強力に抑える最も一般的な治療薬
- カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Pcab):PPIより高度に胃酸抑制を行う。
- H2受容体拮抗薬:軽症例や夜間の症状緩和に使用
生活習慣の改善
- 体重コントロール:肥満を解消し、腹部への圧迫を軽減
- 食事の見直し:高脂肪食や刺激物、炭酸飲料、アルコールなどを控える
- 食後の過ごし方:すぐに横にならず、適度に体を動かす
- ストレスマネジメント:リラクゼーション法や運動習慣の導入
具体的な食事・運動のポイント
推奨される食品
- 消化によい食材(蒸し野菜、白身魚など)
- 胃酸を和らげる食品(ヨーグルトや牛乳など)
避けたい食品・飲料
- 高脂肪料理、揚げ物
- 炭酸飲料、アルコール
- 辛味の強い調味料
運動の取り入れ方
- ウォーキングやヨガなど軽い有酸素運動は胃腸の動きをサポート
- 食後直後の激しい運動は避け、少なくとも30分は空ける
子どもにおける逆流性食道炎
症状とリスク
- 嘔吐、腹痛、食欲不振、喉の違和感などが代表的
- 長期にわたる炎症で食道狭窄や慢性炎症を引き起こすおそれ
- 慢性的な咳や喘息様症状としてあらわれる場合も
対応と予防
- PPIや制酸薬による薬物治療が中心
- 規則正しい食生活や十分な睡眠、適度な運動を心掛ける
- 栄養吸収障害を防ぐためにも早期の診断と治療が重要
逆流性食道炎は、胸やけや呑酸などの症状が日常生活の質を大きく損ねるだけでなく、長期放置によりバレット食道や食道がんへ進行するリスクを伴う疾患です。適切な診断と薬物療法に加え、肥満の解消や食習慣・姿勢の改善、ストレス管理など総合的なアプローチが必要になります。特に、症状が軽度なうちから生活習慣を見直し、継続的なケアを行うことで、症状の軽減および再発防止が期待できます。
最も重要なことは逆流性食道炎以外の病気が隠れている場合があることです。
症状が長引く場合は、胃カメラ以外に血液検査、腹部エコーやCT等も検討する必要があります。