- 2025年6月20日
ピロリ菌除菌後に胃の調子が悪いのはなぜ?考えられる原因とアフターフォローの重要性

こんにちは、たなか内科クリニック院長の田中です。
「ピロリ菌の除菌治療が終わったのに、なんだか胃の調子がすっきりしない…」
「むしろ、胸やけがするようになった?」
このようなお悩みを抱えて当院を受診される方がいらっしゃいます。ピロリ菌除菌治療は、胃がんや胃潰瘍などのリスクを大幅に減らすための大切な治療です。除菌成功と聞いてホッとしたのも束の間、胃の不調が続くと不安になりますよね。
今回は、ピロリ菌除菌後に胃の調子が悪いと感じる場合に考えられる原因と、除菌後のアフターフォローがいかに重要であるかについてお伝えします。
除菌後でも胃の不調が続く?考えられる3つの原因

ピロリ菌除菌治療が成功した後も胃の調子が悪いと感じる場合、いくつかの原因が考えられます。
1. 胃酸分泌の変化によるもの(逆流性食道炎など)
ピロリ菌は胃の中で胃酸を中和しながら生息しています。そのため、ピロリ菌に感染している間は、胃酸の分泌が抑えられていることがあります。
除菌に成功すると、胃からピロリ菌がいなくなり、抑えられていた胃酸の分泌が正常に戻ったり、一時的に増えすぎたりすることがあります。これにより、胃酸が食道に逆流しやすくなり、胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)といった逆流性食道炎の症状が出ることがあります。
- 症状の例: 胸やけ、げっぷ、酸っぱいものがこみ上げてくる、喉の違和感など。
- 特徴: 多くは軽度で一過性のことが多く、次第に落ち着くことがほとんどです。食道裂孔ヘルニアがある方は、食道炎になりやすい傾向があります。
2. 長年のピロリ菌感染による胃粘膜へのダメージ(萎縮性胃炎の進行など)
ピロリ菌に長期間感染していた方は、胃の粘膜が薄くなる「萎縮性胃炎」が進行しているケースが少なくありません。除菌に成功しても、この萎縮性胃炎がすぐに治るわけではありません。
萎縮性胃炎があると、胃の消化機能が低下していたり、胃の動きが悪くなっていたりすることがあります。このため、除菌後も以下のような症状が続くことがあります。
- 症状の例: 胃もたれ、食後の不快感、膨満感、食欲不振、軽い吐き気など。
- 特徴: 胃粘膜の状態が改善するには時間がかかるため、症状が長引くことがあります。
3. 除菌治療で使用した薬剤の影響(服用直後の副作用の名残)
除菌治療で使用した抗菌薬(抗生物質)による副作用が、服用終了後もわずかに残っている可能性も考えられます。特に下痢や味覚異常は、治療期間中に起こりやすい副作用です。
- 症状の例: 軽い下痢、味覚の違和感、倦怠感など。
- 特徴: 多くの場合は時間とともに改善していきます。
除菌後の体調変化、その期間と対処法
除菌後の胃の不調は、原因によって現れる期間や対処法が異なります。
胃酸分泌の変化(逆流性食道炎など)
- 期間: 除菌成功後、比較的早期(数週間〜数ヶ月以内)に現れることがあります。
- 対処法:
- 多くは一過性で、自然に改善することが多いです。
- 症状が強い場合は、胃酸を抑える薬などを短期間服用することで改善されることがあります。市販薬もありますが、医師や薬剤師に相談の上使用しましょう。
- 食生活の見直しも重要です。食べすぎを避け、就寝前の食事を控える、脂っこいものや刺激物を摂りすぎないなどの工夫が有効です。
胃粘膜のダメージ(萎縮性胃炎など)
- 期間: 除菌後も長期にわたって症状が続くことがあります。胃粘膜の状態が完全に回復するには年単位の時間がかかる場合もあります。
- 対処法:
- 食事はよく噛んでゆっくり食べる、消化の良いものを中心にする、脂っこいものや繊維質の多いものは控えるなど、胃に負担をかけない食生活を心がけましょう。
- 市販の胃薬を使用する場合は、消化を助けるタイプの薬を選ぶなど、薬剤師に相談して選ぶのが良いでしょう。胃酸を抑えるタイプの薬は、かえって胃酸分泌が足りない場合に逆効果になることもあるため注意が必要です。
薬剤の影響
- 期間: 服用終了後数日〜数週間で消失することがほとんどです。
- 対処法:
- 水分補給をしっかり行うなど、一般的な体調管理を心がけましょう。
- 症状が長引いたり、悪化したりする場合は、医療機関に相談してください。
除菌後のアフターフォローが最も重要な理由
除菌後に胃の不調がある場合も、症状がない場合も、除菌後のアフターフォロー、特に定期的な胃カメラ検査は非常に重要です。
1. 症状の原因を正確に診断するため
胃の不調の原因は、除菌による胃酸分泌の変化や胃粘膜の状態だけでなく、稀に別の病気が隠れている可能性も否定できません。胃カメラ検査を行うことで、胃や食道の粘膜の状態を直接確認し、症状の正確な原因を診断することができます。
2. 胃がんリスクを継続的に管理するため
「ピロリ菌がいなくなったから、もう胃がんの心配はない!」と思われている方もいらっしゃいますが、これは誤解です。
たしかに、ピロリ菌を除菌することで胃がんになるリスクは大幅に減少します。しかし、長年のピロリ菌感染によって胃の粘膜が既にダメージを受けている場合(萎縮性胃炎など)、そのダメージが原因で将来的に胃がんが発生する可能性は残ります。また、除菌治療をした時点で、ごく小さながんが既に存在していて、除菌後の検査で見つかるケースもあります。
そのため、除菌後も定期的な胃カメラ検査を継続することが非常に重要なのです。
- 特に除菌後5年間は、年に1回の胃カメラ検査を強く推奨します。この期間は、除菌時に見逃されたかもしれない小さながんが発見可能な大きさになることがあるため、特に注意深い経過観察が必要です。
- 胃の萎縮が進んでいた方やご高齢で除菌された方は、その後も年に1回の検査を続けることが望ましいでしょう。
- 比較的若く、胃炎の状態が軽かった方も、除菌後5年間は年に1回の検査を受け、その後の検査頻度は医師と相談して決めていきましょう。
胃がんは初期には自覚症状がないことも多いため、「症状がないから大丈夫」とは思わずに、定期的な胃カメラ検査で早期発見につなげることが、除菌後の「本当の安心」のために最も重要です。
3. 再感染の有無を確認するため(稀ですが)
日本では大人になってからのピロリ菌再感染は極めて稀(約1%程度)ですが、ゼロではありません。定期的な検査の中で、再感染の有無を確認することもできます。
不安を解消し、安心して胃の健康を守りましょう

ピロリ菌除菌後に胃の調子が悪いと感じることは、珍しいことではありません。その多くは一時的なものであったり、除菌による胃の変化によるものだったりします。大切なのは、一人で悩まずに、信頼できる医療機関に相談し、適切な診断と対処を受けることです。
たなか内科クリニックでは、ピロリ菌の検査・除菌治療はもちろんのこと、除菌後の胃の不調に対するご相談や、胃がんリスクを継続的に管理するための定期的な胃カメラ検査まで、一貫してサポートさせていただいております。鎮静剤を用いた苦痛の少ない胃カメラ検査も行っておりますので、検査が苦手な方もご安心ください。
どんな小さなことでも、不安や疑問があれば、どうぞお気軽に当院にご相談ください。皆さまの胃の健康を一緒に守っていきましょう。
※ピロリ菌治療後に一時的に逆流性食道炎の症状が出ることがあります。
しかしほとんどの場合は半年以内で改善するため、一時的な内服等で対応可能と考えています。胃がんのリスクとなるピロリ菌陽性のままで経過するよりも、除菌治療を優先するべきと考えています。もともと逆流性食道炎のある方でも内服を工夫しながら除菌治療を行いますのでご安心ください。