• 2025年8月9日

脂質異常症(高脂血症)

「サイレントキラー」脂質異常症に潜む危険とは?

「脂質異常症」という言葉、あまり聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんね。以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、現在ではその実態に合わせて名称が変わっています。実は、推定患者数は220万人以上とも言われ、年々増加の一途をたどっている、私たちにとって身近な病気の一つです。

しかし、この脂質異常症、厄介なことにほとんど自覚症状がありません。そのため、気づかないうちに病気が進行し、静かに体を蝕んでいくことから「サイレントキラー」とも呼ばれています。

血液中の「脂質」のバランスがカギ!3つのタイプを知ろう

「コレステロール」や「中性脂肪」と聞くと、体に悪いイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、これらは三大栄養素である脂質の一部であり、私たちの体にとって重要な役割を果たす大切な物質です。

問題となるのは、血液中に含まれるこれらの脂質の量が一定の基準よりも多すぎたり、少なすぎたりすることです。このバランスが崩れると、健康上のリスクが生じます。

脂質異常症は、主に次の3つのタイプに分けられます。それぞれのタイプで、コレステロールや中性脂肪がどのように体に影響を与えるのかを見ていきましょう。

LDL(悪玉)コレステロールが多い(高LDLコレステロール血症)

LDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞に運ぶ役割をしています。しかし、多すぎると血管の壁にベタベタと付着し、血管内をドロドロの状態にしてしまいます。

HDL(善玉)コレステロールが少ない(低HDLコレステロール血症)

HDLコレステロールは、体内の余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す「お掃除役」のような存在です。この善玉コレステロールが少ないと、血管内に溜まった余分なコレステロールをきれいに回収できず、血管はドロドロの状態になってしまいます。

中性脂肪(トリグリセライド)が多い(高トリグリセライド血症)

中性脂肪は、私たちの体にとって重要なエネルギー源となる物質です。しかし、血液中の量が増えすぎると、悪玉コレステロールがさらに血管の壁に入り込みやすくなったり、善玉コレステロールの量が減ってしまったりします。その結果、血管内はコレステロールがさらにたまりやすい「ドロドロ状態」になってしまうのです。


あなたは大丈夫?脂質異常症の診断基準

では、具体的にどのくらいの数値だと脂質異常症と診断されるのでしょうか。健康診断の結果を受け取ったら、以下の数値に注目してみてください。

項目基準値診断
LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド150mg/dL以上(空腹時採血)
175mg/dL以上(随時採血)
高トリグリセライド血症

※日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より

これらの数値が基準値を超えている場合、脂質異常症と診断されます。中性脂肪の数値は食後数時間かけて上昇するため、より正確な数値を把握するためには、午前中に朝食を抜いた状態で採血することが望ましいとされています。


なぜ脂質異常症になる?潜む原因と意外な落とし穴

脂質異常症の原因は多岐にわたりますが、主に以下の要素が複雑に絡み合って発症すると言われています。

  • 過食・肥満:カロリーの摂りすぎ、特に脂肪分の多い肉や卵、乳脂肪分の多い食品(バター、チーズ)、即席麺などの食べ過ぎはLDLコレステロールや中性脂肪の上昇につながります。また、果物や甘いお菓子の食べ過ぎ、お酒の飲み過ぎも中性脂肪を増やす大きな原因となります。
  • 運動不足:慢性的な運動不足は、体内で消費されるエネルギーを減らし、脂質の代謝を悪化させます。
  • 喫煙:タバコを吸うとHDLコレステロールが低下し、脂質異常の状態になりやすくなることが判明しています。さらに、酸化したLDLコレステロールが血管壁に蓄積する原因にもなります。
  • ストレス:ストレスも脂質の代謝に悪影響を及ぼすことがあります。
  • 遺伝的な要因:上記以外に、遺伝的な要因で「家族性高コレステロール血症」を発症することもあります。遺伝的な素因がない方に比べ、悪玉(LDL)コレステロールの値が高くなりやすく、動脈硬化の進行が早いとされています。
  • 他の病気の影響(続発性):甲状腺機能低下症、糖尿病、腎臓病、肝臓病などの病気が原因で脂質異常症を発症することもあります。この場合は、元の病気の症状がきっかけで脂質異常症が判明することもあります。

大半の脂質異常症は、成人以降の食生活、運動不足、体重増加などが原因となって起こると言われています。日々の生活習慣が大きく影響しているのです。


自覚症状がないからこそ怖い!「動脈硬化」への道筋と合併症

脂質異常症の最も恐ろしい点は、その自覚症状のなさにあります。そのため「沈黙の病気」とも呼ばれ、ほとんどの場合は定期検診などで数値の異常を指摘されて初めて判明します。

何も症状がないからと放置していると、血管の内側にコレステロールや中性脂肪がどんどん蓄積し、血管が硬く、狭くなってしまう「動脈硬化」がじわじわと進んでしまいます。そして、ある日突然、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血といった、命に関わる大きな病気を発症してしまうケースが少なくありません。

自覚症状がなくても健康診断の数値は、あなたの体からの重要なサインと捉え、たとえ数値が良くなくても放置せずに適切な対応を取ることが極めて重要です。


今日からできる!脂質異常症改善のための生活習慣と治療の進め方

脂質異常症の治療は、年齢、性別、高血圧や糖尿病の有無、喫煙習慣、家族の既往歴などを考慮して目標値を設定し、進められます。患者さんの総合的なリスクを考慮しながら治療方針が決定されますが、一般的には、まず食事や運動といった生活習慣の改善から始め、それでも改善しない場合に薬物療法を検討するのが一般的です。

1.食事の管理:賢く選んで血管をきれいに!

食事の管理を行う際は、以下の5つのポイントを抑えておきましょう。

  • カロリー摂取量を減らす:適切なカロリー摂取量を把握し、過食を避けましょう。
  • コレステロールが多い・上げる食品を控える:肉の脂身に多い飽和脂肪酸は特に注意が必要です。なるべく赤身の肉を選ぶようにしましょう。
  • 甘いものや炭水化物を控える:これらは中性脂肪の増加につながります。
  • 減塩:高血圧の予防にもつながります。
  • アルコールの量を減らす:特に中性脂肪が高い方は、アルコールの過剰摂取に注意が必要です。

その一方で、積極的に摂取した方がいいものもあります。

  • 良質なタンパク質:大豆製品(豆腐、納豆など)や青魚など。
  • 野菜・果物・海藻などの食物繊維:コレステロールの吸収を抑える効果が期待できます。

ただし、脂質異常症の改善につながるからといって過剰に摂取するのではなく、あくまでも食事の量に気をつけながらバランスのいい食事を心がけることが大切です。脂質異常症を指摘された方は、一度栄養指導を受けてみることを強くおすすめします。

2.運動:有酸素運動で効率よく燃焼!

まずはじめに、運動を始めるにあたり、高齢の方や持病のある方は必ず主治医と相談してから始めましょう。

脂質異常症を改善するためにおすすめの運動は有酸素運動です。日常生活で取り入れやすい有酸素運動を以下に紹介します。

  • 速歩(早歩き)
  • ジョギング
  • 水泳
  • サイクリング
  • 社交ダンス

どのくらい運動すればいいかの目安を設定する際は、脈拍が測定できるものを身につけるのがおすすめです。脈拍数110~120回程度の運動強度で上記の運動を、最低30分~60分ぐらいの時間で週に3回以上行ってみましょう。この脈拍数の運動は、運動中の血圧上昇や疲労物質の蓄積が少ないとされているので、体への負担軽減につながります。

しかし、最初から頑張りすぎてしまうと継続できないという方も多いので、無理なく続けられるスケジュールを立てて取り組むようにしましょう。

3.薬物療法:医師の判断で適切に

脂質異常症は患者さんのリスクによって治療目標値が異なります。心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患や、動脈硬化に関連する病気を発症している場合は、より厳格な治療目標が設定され、薬物療法が早期に検討されます。

食事療法や運動療法を行っても改善が見られない場合や、既に動脈硬化の傾向が見られる人、糖尿病などを併発している人など、早期改善を必要とするケースでは、以下のような薬が処方されます。

  • 悪玉コレステロール(LDL)が高い場合
    • ストロングスタチン(クレストール:一般名ロスバスタチン、リピトール:一般名アトルバスタチン、リバロ:一般名ピタバスタチンなど)
    • スタンダードスタチン(メバロチン:一般名プラバスタチン、ローコール:一般名フルバスタチン、リポバス:一般名シンバスタチンなど)
  • トリグリセリド(中性脂肪)が高い場合
    • フィブラート系(ベザトール:一般名ベザフィブラート、トライコア・リピディル:一般名フェノフィブラート、パルモディア:一般名ペマフィブラートなど)
    • EPAやDHA(魚の脂)(エパデール:一般名EPA、ロトリガ:一般名EPA+DHAなど)

薬物治療と併行して「食事療法」や「運動療法」を行い、動脈硬化の進行を予防することが非常に重要です。


予防が何より大切!定期的な健診と健康的なライフスタイルを

脂質異常症は自覚症状がないため、定期的に健康診断を受けて自身の数値を把握しておくことが何よりも大切です。早期に異常を発見し、適切な対策を講じることで、心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な病気を未然に防ぐことができます。

日頃から暴飲暴食は避け、適度な運動を継続するなど、健康的な生活を心がけましょう。自分の体のSOSを見逃さず、より健康的な毎日を送るために、今日からできることを始めてみませんか?

脂質異常症について、問題となるのは動脈硬化の進行となります。

リスク分類として久山町スコアが使用されることが多いですが、60歳以上でLDL 160以上の場合は女性であっても中リスクに分類されますので、注意が必要です。

生活習慣の改善にてLDLが低下しない場合は内服治療をご相談頂ければと思います。

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