- 2025年12月2日
「食後のお腹の痛み」はなぜ起こる?ご飯を食べると痛む原因と危険なサイン

食後にお腹が痛くなる、ご飯を食べると胃がキリキリする、といった経験は多くの方が持つお悩みではないでしょうか。単なる食べ過ぎや消化不良で済むこともありますが、その痛みが慢性的に続く場合や、特定のタイミングで現れる場合は、消化器系の病気が隠れているサインかもしれません。
今回は、「食後の腹痛」に特化し、痛みのタイミング別に考えられる原因と、「すぐに受診すべき危険なサイン」を消化器内科の専門的な視点からお伝えします。不安を解消し、適切な受診行動につなげましょう。
1. 痛みのタイミング別:食後のお腹の痛みの原因
食後の腹痛は、食べたものが胃から腸へと移動し、消化・吸収が行われる過程で発生します。痛むタイミングによって、主に上部消化管(胃や十二指腸)の問題か、下部消化管(小腸や大腸)の問題か、ある程度推測することが可能です。
【パターンA】食べた直後〜30分以内に痛む場合(胃・上腹部中心)
食後すぐに痛む場合、食べ物が胃に入った刺激によって症状が悪化する病気が考えられます。
| 考えられる主な疾患 | 症状の特徴とポイント |
|---|---|
| 胃潰瘍 | 胃酸分泌の増加により潰瘍部位が刺激され、食後に痛みが悪化する傾向があります。みぞおちの痛み(キリキリ、シクシクなど)や、食後の胃もたれ、膨満感を伴うことがあります。 |
| 急性胃炎/慢性胃炎 | 暴飲暴食、アルコール、刺激物、ストレス、ピロリ菌感染などが原因で胃粘膜に炎症が起きる状態です。胃もたれや吐き気、突然の胃痛として現れます。 |
| 機能性ディスペプシア (FD) | 胃カメラなどで検査しても潰瘍や炎症などの明らかな異常が見つからないにもかかわらず、胃の機能(運動や知覚)の異常により、食後すぐに満腹になる(早期満腹感)、胃もたれ、みぞおちの痛みなどが慢性的に続く病気です。 |
| 逆流性食道炎 (GERD) | 胃酸が食道へ逆流し、胸やけや喉の奥の不快感が生じますが、上腹部の痛みや食後のお腹の張り(膨満感)を感じることもあります。 |
| アニサキス症 | 生魚(寿司、刺身など)を摂取した後、突然の激しい胃痛に襲われるのが特徴です。これは魚介類に寄生する線虫(アニサキス)が原因の食中毒です。 |
【パターンB】食後数時間後〜空腹時に痛む場合(十二指腸・腸中心)
食後に消化が進み、食べ物が胃から排出された後や、空腹時に症状が強く出る場合は、十二指腸や小腸、大腸に問題がある可能性があります。
| 考えられる主な疾患 | 症状の特徴とポイント |
|---|---|
| 十二指腸潰瘍 | 胃酸が十二指腸粘膜を傷つけることで発症し、空腹時に痛みが強まり、食事を摂ると症状が和らぐことが一般的です。 |
| 過敏性腸症候群 (IBS) | ストレスなどにより腸の働きが不安定になり、腹痛や腹部の不快感とともに、便秘や下痢を繰り返す慢性的な病気です。食後に症状が出ることが多く、「ガス型」ではお腹の張り(膨満感)が強く出ます。 |
| 急性下痢/腸炎 | ウイルス(ノロウイルスなど)や細菌による感染性胃腸炎や食中毒の場合、急な腹痛と頻繁な下痢、嘔吐、発熱を伴うことが多いです。 |
| 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病) | 腸に慢性的な炎症が起こる病気です。腹痛、下痢、血便、体重減少などが長期間続きます。 |
その他、重篤な疾患による腹痛の可能性
胃痛や腹痛の原因として、胃腸以外の臓器の異常が考えられる場合もあります。
- 胆石症:右のみぞおちや右脇腹の痛みを引き起こすことがあります。
- 急性膵炎/慢性膵炎:突然の激しい上腹部や背中の痛みが特徴で、アルコールや胆石が原因となることが多いです。
- 大腸がん:初期には症状がないことも多いですが、進行すると便通の異常(便秘・下痢)、腹痛、血便、体重減少などが現れることがあります。40歳を過ぎるとリスクが高まります。
2. 「様子を見ても良い腹痛」と「すぐに受診すべき危険なサイン」
食後の腹痛で最も大切なことは、重篤な病気のサインを見逃さないことです。
様子を見ても良い/セルフケアで対応できる可能性が高い腹痛

比較的軽度で、一時的な原因による腹痛は、まずはセルフケアで対応することが可能です。
- 症状が軽い、または一過性の痛み:食べ過ぎ、冷たいものの摂りすぎ、ストレスなど、原因が明確で一時的に起こる軽い痛み。
- 食生活やストレスで改善が見込める場合:消化の良い食事(おかゆ、うどん、白身魚、卵など)を少量ずつ摂る、刺激物(高脂肪食、アルコール、香辛料)を避ける、体を休ませる。
- 腹部膨満感が主で、排出されると楽になるガス:早食いや炭酸飲料による空気の飲み込み(呑気症)、または便秘が原因のガス溜まりが考えられます。適度な運動やストレス管理も有効です。
すぐに受診すべき「危険なサイン」

以下の症状が見られる場合は、潰瘍の進行、感染症の悪化、がんなどの重篤な病気が隠れている可能性があるため、自己判断せずに速やかに医療機関(内科・消化器内科)を受診してください。
| 危険なサイン | 考えられる病気の例 |
|---|---|
| 我慢できないほどの激しい腹痛や背中の痛み | 腸閉塞(イレウス)、急性膵炎、虫垂炎(盲腸) |
| 発熱を伴う | 感染性胃腸炎、虫垂炎、胆嚢炎など |
| 血便や黒色便(タール便)がある | 消化管からの出血(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸がん、炎症性腸疾患など) |
| 頻繁な嘔吐や下痢で水分が全く摂れない | 重度の感染性胃腸炎(ノロウイルスなど)、脱水症状 |
| 原因不明の体重減少を伴う | 胃がん、大腸がん、炎症性腸疾患など |
| 症状が1週間以上長引いている | 慢性疾患(IBS、炎症性腸疾患など)や他の病気が疑われます。特に胃の薬を1週間以上服用しても改善しない場合は胃カメラが推奨されます。 |
| おならや便が全く出ない | 腸閉塞(イレウス)の可能性があります。 |
3. 食後の不調を根本から解決するために

食後の腹痛や不快感は、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)のような機能的な原因が頻度としてはほとんどですが、他の重大な病気を見落とさないためにも検査による器質的疾患の除外が非常に重要です。
特に、FDやIBSの診断には、胃がんや胃潰瘍、逆流性食道炎などの器質的疾患を除外するために胃カメラ検査が不可欠です。また、腹痛や便通異常が続く場合、40歳までには一度内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることが推奨されています。
長引くお腹の不調がある場合、まずは消化器内科を受診し、ご自身の胃腸の状態を正確に把握することが、快適な日常を取り戻すための第一歩です。