• 2025年6月20日

ピロリ菌除菌の副作用が心配な方へ。症状と期間、対処法を医師が解説

皆さま、こんにちは。

たなか内科クリニック院長の田中です。

「ピロリ菌の除菌治療を勧められたけど、副作用が心配…」
「どんな症状が出るの?」
「もし副作用が出たらどうすればいい?」

ピロリ菌除菌治療を検討されている方、あるいは現在治療中の方から、このようなご相談をいただくことがよくあります。ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍、慢性胃炎など多くの胃の病気の原因となるため、除菌治療は非常に大切です。しかし、お薬を使う治療である以上、副作用の不安はつきものですよね。

今回は、皆さまが安心して治療に臨めるよう、ピロリ菌除菌に伴う副作用について、症状の種類や現れる期間、そして具体的な対処法をお伝えします。


ピロリ菌除菌治療の基本を知ろう

まず、ピロリ菌除菌治療の基本的な情報について確認しましょう。ピロリ菌は幼少期に感染し、除菌しない限り一生胃の中に住み着くとされています。胃がんの最大の原因とも言われており、特に50代以上の方では感染率が高い傾向にあります。

除菌治療では、通常、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)1種類と、2種類の抗菌薬(抗生物質)を組み合わせた3種類の薬を、1日2回、7日間服用します。この組み合わせにより、一次除菌で約7〜8割、二次除菌まで行えば約95%以上の方が除菌に成功すると言われています。

当院では、胃酸抑制効果が高く除菌率の向上に寄与するタケキャブを含む薬剤を使用することが多いです。


ピロリ菌除菌治療で現れる主な副作用とその頻度

除菌治療中に副作用が現れるのは珍しいことではありません。「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」によると、一次除菌療法に伴う副作用は約15〜66%で報告されており、多くの場合は一時的で症状も軽いです。

主な副作用と発生頻度は以下の通りです。

1.軟便・下痢(約10〜30%)

最も多く見られる副作用です。抗菌薬が腸内の細菌バランスを一時的に変化させたり、腸を刺激したりすることで起こります。症状は軽度であることがほとんどですが、気になる場合は整腸剤を併用することで症状が和らぐこともあります。

2.味覚異常・舌炎・口内炎(約5〜15%)

「食べ物の味がおかしい」「口の中が苦い」「金属のような味がする」といった症状です。これは、除菌に使用する抗菌薬の一種であるクラリスロマイシンの影響で起こりやすいとされています。

3.発疹・かゆみなどのアレルギー反応(約2〜5%)

皮膚に湿疹やかゆみが現れることがあります。重篤な場合は、喉のつまりや息苦しさ、呼吸困難などを伴うアナフィラキシーとなる可能性も極めて稀ですがあります。特に、過去にペニシリン系の抗菌薬などでアレルギーを起こした経験がある方は、事前に必ず医師にお伝えください。

4.肝機能検査値の変動

AST(GOT)やALT(GPT)といった肝臓の機能を示す数値が一時的に高くなることがあります。これは、お薬が肝臓で分解される過程で起こる反応で、ほとんどの場合、服用終了後に正常に戻ります。

5.その他の症状

その他にも、吐き気、腹痛、腹部膨満感、便秘、頭痛、めまい、倦怠感などの症状が報告されていますが、いずれも頻度は高くありません。

二次除菌の副作用は一次除菌よりも少なく、約8〜26%に認められます。これは、一次除菌で耐性菌の可能性があったクラリスロマイシンが別の抗菌薬(メトロニダゾールなど)に切り替わるため、副作用の出方が変わることが要因と考えられます。

高齢者の方でも、副作用の頻度が特に高くなるという報告はありませんのでご安心ください。


副作用が出たときの対処法と受診のタイミング

副作用が出た際に最も大切なのは、自己判断で薬の服用を中止したり、量を減らしたりしないことです。指示通り7日間飲み切らないと、除菌が不完全になり、薬が効かない「耐性菌」ができてしまい、その後の治療が困難になるリスクがあります。

1.我慢できる程度の軽い症状の場合

  • 軟便・軽い下痢、軽い吐き気
    • 脱水症状を防ぐために、水分補給をしっかり行いましょう。
    • 食事は、おかゆやうどん、脂肪の少ない肉や魚など、消化の良いものを中心に摂りましょう。脂っこいものや香辛料などの刺激物は避けてください。
    • 市販の整腸剤(プロバイオティクス)は症状の緩和に役立つことがありますが、自己判断せずに、まずは医師や薬剤師にご相談ください。
  • 味覚異常
    • ほとんどの場合、治療が終われば自然に改善します。一時的なものと考えて、治療期間中は様子を見ましょう。
    • 症状が辛い場合は、味付けを工夫するなども有効です。

2.こんな時はすぐに服用を中止し、当院へご連絡ください!

以下の症状が現れた場合は、重篤な副作用やアレルギー反応の可能性があるため、直ちに薬の服用を中止し、当院までご連絡ください。

  • 発熱や激しい腹痛を伴う下痢
  • 便に血液や粘液が混じっている下痢
  • 全身のかゆみ、じんましん、発疹
  • 喉のつまった感じ、息苦しさ、呼吸困難

3.その他、気になる症状がある場合

  • 軽い症状だと思っていても、日を追うごとにひどくなる場合。
  • 嘔吐、食欲不振、強い頭痛など、日常生活や仕事に支障が出るほどの強い副作用が出ている場合。
  • 上記以外でも、不安な症状やいつもと違うと感じる体調変化がある場合。

このような場合は、自己判断で我慢せずに、必ず医師や薬剤師にご相談ください。症状の程度に応じて、整腸剤の処方や、薬の変更など別の対処法を検討できる場合があります。


除菌治療中の生活での注意点

除菌治療の効果を最大限に引き出し、副作用を最小限に抑えるために、以下の点に注意しましょう。

禁酒

  • 除菌治療中のお薬は、アルコールと相互作用を起こし、薬の効果が弱まったり、吐き気や頭痛などの副作用を強くしたりする可能性があります。特に、二次除菌で使われるメトロニダゾール(フラジール)は、アルコールとの併用で悪心・嘔吐などの不快な症状を引き起こすことがあります。
  • 治療期間中(7日間)は、必ず禁酒してください。二次除菌の場合は、薬の服用後3日間はアルコールの摂取を控える必要があります。

禁煙

  • 喫煙は胃の粘膜に負担をかけ、薬の効果を妨げる可能性が指摘されています。可能であれば治療期間中は禁煙することが望ましいです。

服薬アドヒアランス

  • 医師の指示通りに、処方された薬を適切なタイミングで、7日間欠かさず服用することが成功の鍵です。飲み忘れがないように、日常の習慣に組み込む工夫をしましょう。

除菌治療後の体調変化と長期的な注意点

無事に除菌治療が成功した後も、一時的な体調変化や、長期的に注意すべき点があります。

1.胃もたれ、胸やけ

除菌治療後に、胃もたれや胸やけを感じる方が少数いらっしゃいます。

  • 胃もたれ: ピロリ菌に長期間感染していたことで胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎が進行している場合、除菌後も消化機能が低下していることがあります。胃粘膜の状態が改善するには時間がかかります。
  • 胸やけ: ピロリ菌によって抑えられていた胃酸の分泌が、除菌後に正常に戻ることで、一時的に逆流性食道炎のような症状(胸やけ、呑酸など)が現れることがあります。多くは軽度で一過性のことがほとんどで、胃酸を抑える薬で改善されるケースが多いです。

2.体重増加や生活習慣病のリスク

ピロリ菌除菌後に、食欲が増して体重が増加したり、コレステロール値や血糖値が微増したりする可能性が指摘されています。これは、ピロリ菌がいたことで抑えられていた食欲が正常に戻る、胃の機能が改善するなどが要因と考えられます。もともと血糖や脂質の値が高めの方は、除菌後の食生活に一層注意が必要です。

3.除菌後も定期的な胃カメラ検査が必須です

除菌治療が成功したからといって、「もう胃がんの心配はない」と考えるのは誤解です。

除菌によって胃がんになるリスクは大幅に減少しますが、ゼロにはなりません。これは、長年のピロリ菌感染により胃の粘膜が既にダメージを受けている(萎縮性胃炎など)ためです。

そのため、除菌後も定期的な胃カメラ検査を継続することが非常に重要です。

  • 特に除菌後5年間は、年1回の胃カメラ検査を強く推奨します。この期間は、除菌時に見逃されたごく小さながんが発見可能な大きさになることがあるため、注意深い経過観察が必要です。
  • 胃の萎縮が進んでいた方やご高齢で除菌された方は、その後も年1回の検査を続けることが望ましいでしょう。
  • 比較的若く、胃炎の状態が軽かった方も、除菌後5年間は年1回の検査を受け、その後の頻度は医師と相談して決めていきましょう。

胃がんは初期には自覚症状がないことが多いため、「症状がないから大丈夫」とは思わずに、定期的な検査で早期発見につなげることが、除菌後の「本当の安心」のために最も重要です。


安心して治療と向き合うために

ピロリ菌除菌治療は、将来の胃の健康を守るための大切なステップです。副作用の心配は当然ですが、その多くは一時的で対処可能です。

たなか内科クリニックでは、ピロリ菌の検査から除菌治療、そして除菌後の経過観察(定期的な胃カメラ検査)まで、一貫してサポートしております。鎮静剤を用いた苦痛の少ない胃カメラ検査も可能ですので、検査が苦手な方もご安心ください。

どんな些細なことでも、不安や疑問があれば、どうぞお気軽に当院にご相談ください。皆さまの胃の健康を一緒に守っていきましょう。

※ピロリ菌の除菌治療時に認める副作用として多いものは、下痢と思います。抗生剤の影響で腸内細菌のバランスが悪くなる事が原因とされていますが、一過性で済むことがほとんどです。下痢の回数が多い場合は整腸剤を処方しますので、除菌治療薬を中止する前に一度相談頂ければと思います。

なお、じんま疹などのアレルギー症状については内服継続にて悪化しますので、速やかに除菌治療薬を中止の上で連絡をお願いします。

その場合でも3日程度内服できていれば除菌が成功している場合もありますので、二か月後を目安に尿素呼気試験で判定を行います。

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