• 2025年1月28日
  • 2025年1月30日

魚介類に潜む寄生虫:アニサキス症とその予防策

1.アニサキス症とは

アニサキスは、魚介類に寄生する線虫(回虫の一種)で、加熱や冷凍処理が不十分なまま摂取すると人に感染し、「アニサキス症」を引き起こします。重症の場合、激しい腹痛やアレルギー反応を伴うため、生魚介を多く食べる文化がある地域では重要な食品衛生上の課題となっています。

2.感染による症状:急性から慢性まで

急性期の症状

  • 食後数時間から数日以内に、胃や腸の壁に幼虫が侵入して激しい腹痛や悪心・嘔吐を引き起こす
  • 腸まで達した場合は腸閉塞や腸管の炎症を伴うことがある

慢性期の症状

  • 長期的に腸閉塞や癒着が生じる場合があり、慢性的な腹部不快感や食欲不振が続くケースも報告
  • 重度の場合、穿孔が起こることもまれにある

アレルギー反応

  • アニサキスに対する即時型アレルギーとして、蕁麻疹や呼吸困難、アナフィラキシーショックが発生することがある。
  • 軽症ではかゆみや発疹程度で済むが、重症例では血圧低下など危険な状態に陥る可能性がある

3.アニサキスの種類と寄生しやすい魚介類

アニサキスの代表的な2種

  • Anisakis simplex:北大西洋や北太平洋の多様な魚に広く寄生
  • Pseudoterranova decipiens:タラなど、寒冷海域で獲れる魚に多い

幼虫は白っぽい糸状で、2~3cm程度の細長い形状をしており、内臓だけでなく筋肉部にも寄生します。

よく寄生する魚介類

  • サバ、アジ、イワシ、サケ、タラ、イカ などが代表的
  • 貝類にも寄生が確認される場合があり、冷涼海域の魚では寄生率が高い傾向
  • サバやイカは生食の機会が多く、加工や処理が不十分だと感染リスクが増大

4.アニサキスの生活環:海洋生態系と人の感染

海洋哺乳類から排出

イルカやクジラなどの腸内で成虫になったアニサキスは、糞便とともに卵を海中へ放出。

中間宿主の甲殻類

卵が孵化した幼虫はオキアミなどのプランクトンに取り込まれ、ここで成長。

魚介類への寄生

オキアミを捕食した魚に幼虫が移行し、内臓や筋肉に寄生。

人への感染

加熱・冷凍が不十分な状態で魚介を食べると、幼虫が胃や腸に侵入して激しい炎症を引き起こす。

5.感染リスクと発生原因

主な感染ルート

  • 生や加熱不十分な魚介類(刺身、寿司、カルパッチョなど)の摂取
  • 酢や塩での簡易処理しか行っていない食品(酢漬け・塩漬け)

リスク増大要因

  • 内臓処理が遅れた場合、魚の筋肉部に幼虫が移動しやすい
  • 鮮度管理や衛生管理が不十分な加工・流通経路で感染率が上がる

6.治療方法:内視鏡による除去と対症療法

胃カメラ(上部内視鏡)による除去

  • 幼虫が胃壁に侵入している場合、内視鏡で直接取り除くことが可能
  • 診断と治療を同時に行えるため、早期に症状を軽減できる
  • 数か所にアニサキスを認める場合があり注意が必要

腸内感染への対応

  • 腸に達して症状が重い場合は、炎症を抑える対症療法が中心
  • まれに手術が必要となるケースもある(腸閉塞や穿孔など)

7.アニサキス症の予防策:家庭でできる対処

加熱処理

  • アニサキス幼虫は 70℃ 以上で数秒間加熱すれば死滅
  • 焼き物、煮物、揚げ物など十分な加熱をすることで安全性が高まる

冷凍処理

  • イナス20℃以下で24時間以上冷凍することにより、幼虫を確実に死滅させられる
  • 凍された魚介類を生で食べる場合は、安全性が大幅に向上

生食時の注意

  • 視検査:透かしながら切り身を確認し、白っぽい糸状の幼虫を除去
  • 温度管理:信用のおける業者や店舗から購入し、適切に処理された魚を選ぶ
  • 調理段階で細かく切り分けることで、見落としを減らす

アニサキス症は、生魚介類を食べる文化がある地域で比較的多く見られる寄生虫感染症です。激しい腹痛やアレルギー症状が特徴で、時に重篤な事態を招くこともあります。
しかし、加熱処理や冷凍処理の徹底、目視による幼虫除去といった適切な対策を行えば、感染リスクは大幅に低減できます。魚介類を安全かつおいしく楽しむためには、鮮度や調理方法に十分注意し、万が一激しい腹痛やアレルギー反応が出た際には早めに医療機関を受診することが大切です。
※魚介類摂取後、1-2日以内に強い腹痛を自覚し、下痢や嘔吐の胃腸炎症状が乏しい場合は、アニサキスを疑います。早い段階であれば胃カメラで虫体を除去することが可能です。
しかし小腸へ進んで死滅しない場合は盲腸付近(お腹の右下)で炎症を起こす場合がありますので、アニサキス除去したのに下のお腹が痛む場合は再度医療機関への受診をお勧めします。

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