- 2026年11月2日
イライラしたら甘いものは逆効果?モヤモヤを解消する正しい食生活のポイント

こんにちは。
明石市のJR大久保駅北口すぐ、たなか内科クリニック院長の田中敏雄です。
仕事や人間関係でイライラしたりモヤモヤしたりしたとき、「ストレス解消だ!」と甘いお菓子に手を伸ばしてしまうことはありませんか?甘いものを食べると一瞬だけ気分が晴れるような気がしますが、実は医学的な視点から見ると、それは逆効果になってしまっていることがあります。
今回は、日頃見落としがちな「食生活の3つの間違い」と、ストレスに負けないための正しい栄養の摂り方について分かりやすく解説します。
■ 間違い1:イライラしたら「甘いもの」でストレス解消

ストレスを感じると甘いものが無性に食べたくなる——これは気持ちの問題だけでなく、体の仕組みとも深く関わっています。ストレスを受けると副腎から「コルチゾール(ストレスホルモン)」が分泌され、血糖値を上げようとする反応が起きます。その結果、脳が「糖分を補給しろ」というサインを出し、甘いものへの欲求が高まるのです。
血糖値スパイクとイライラの悪循環
甘いものを大量に食べると血糖値が急激に上昇し、それを抑えるために膵臓から大量のインスリンが分泌されます。すると今度は血糖値が急降下し(血糖値スパイク)、この急激な乱高下によって脳がエネルギー不足を感じ、倦怠感・集中力の低下・さらなるイライラを引き起こします。糖質過多な食生活を続けていると、体内の糖質が切れてきたときに慢性的なイライラが起きやすくなり、「ストレス解消のため」にまたお菓子を食べる……という悪循環に陥ってしまいます。食べて一時的に気分が良くなるのは、根本的なストレス解消ではありません。むしろ、ストレスに対抗できる物質を食事できちんと補うことが大切です。
「幸せホルモン」セロトニンを増やす工夫
ストレスの感じやすさには、脳の神経伝達物質である「セロトニン(幸せホルモン)」が深く関わっています。セロトニンが十分に分泌されると、気持ちが穏やかになり、精神的な安定感が増します。一方、セロトニンが不足すると不安・イライラ・気分の落ち込みが起きやすくなります。
注目すべきは、セロトニンの約90%は腸で作られているという事実です。「腸は第二の脳」とも呼ばれ、腸内環境が乱れると脳の感情調節にも影響が出ます(腸脳相関)。つまり、ストレスに強い心と体を作るには、腸の健康を保つことも重要なのです。
セロトニンを作るために欠かせない栄養素が「トリプトファン」です。トリプトファンは体内で作れない必須アミノ酸であり、食事から摂取する必要があります。さらに、トリプトファンからセロトニンへの変換にはビタミンB6と鉄分が必要です。これらをバランスよく摂ることが、心の安定につながります。
| 栄養素 | 主な働き | 多く含む食材 |
| トリプトファン | セロトニンの原料となる必須アミノ酸 | 牛乳・チーズ・ヨーグルト、豆腐・納豆、卵、バナナ、まぐろ・かつお |
| ビタミンB6 | トリプトファン→セロトニンへの変換を助ける | かつお、鶏むね肉、にんにく、バナナ、玄米 |
| 鉄分 | セロトニン合成の補酵素として働く | レバー、赤身肉、ほうれん草、小松菜、大豆製品 |
| GABA | 脳の興奮を抑え、リラックス効果を高める | 発芽米、トマト、漬物、チョコレート |
| カルシウム・マグネシウム | 神経の興奮を抑え、イライラを和らげる | 乳製品、小魚、海藻、ナッツ類、緑黄色野菜 |
| ビタミンC | コルチゾール過剰分泌を抑え、抗ストレス作用 | パプリカ、ブロッコリー、キウイ、レモン、いちご |
ポイント:日光浴もセロトニン産生を後押しする
朝起きたら15〜30分程度、日光を浴びることでセロトニンの産生リズムが整います。食事による栄養補給に加え、朝の散歩など軽い有酸素運動を組み合わせるとさらに効果的です。また、腸内環境を整えるために、食物繊維(野菜・きのこ・海藻)と発酵食品(ヨーグルト・味噌・納豆)を毎日の食事に取り入れましょう。
■ 間違い2:仕事に集中したいからと「糖分でエネルギーチャージ」

「仕事や勉強で疲れた脳を動かすために、甘いものを食べてブドウ糖を補給する」というのはよくある発想ですが、医学的には少し誤解があります。確かに脳のエネルギー源はブドウ糖ですが、たとえブドウ糖が足りなくなっても、体は脂肪が分解されて作られる「ケトン体」をエネルギー源として代わりに使うことができます。
血糖値の乱高下が集中力を奪う
甘いものを食べた直後には血糖値が急上昇して「元気が出た」と感じますが、その後インスリンが大量分泌されて血糖値が急降下すると、急な眠気・思考の鈍化・集中力の低下が起きます。これがいわゆる「午後の眠い時間」の正体です。砂糖たっぷりの菓子類や清涼飲料水でエネルギーチャージをする習慣は、むしろ仕事の効率を下げる原因になっているのです。
「甘いものを食べないと頭が働かない」という状態は、実は普段から甘いものを摂りすぎて糖質への依存(甘いものがないとイライラする状態)に陥っているサインです。「仕事のおともには甘いお菓子が不可欠」という思い込みをなくし、負のスパイラルから抜け出しましょう。
仕事中の「正しい間食」を選ぶ
集中力を持続させるには、血糖値を急激に上げず、緩やかに安定させることが大切です。間食をするなら以下のような食品を選びましょう。
| ・ナッツ類(くるみ・アーモンドなど):良質な脂質とマグネシウムが豊富で、脳の働きをサポートする ・チーズ・ゆで卵:タンパク質とトリプトファンを補給でき、腹持ちも良い ・バナナ:トリプトファン・ビタミンB6・糖質のバランスが良く、自然な甘みで血糖値の乱高下を抑えやすい ・カカオ70%以上のダークチョコレート(1〜2片):後述するカカオポリフェノールの恩恵を受けながら糖質を抑えられる |
注意:カフェインと甘いものの組み合わせに気をつけて
コーヒーや緑茶に含まれるカフェインにも覚醒・集中力向上の効果がありますが、砂糖をたっぷり入れたカフェオレや甘い缶コーヒーでは血糖値スパイクを起こしやすくなります。コーヒーはブラックか、甘みを控えめに。間食とカフェインを組み合わせるなら、ナッツ類や低GIの食品と合わせるのがおすすめです。
■ 間違い3:チョコレートも含めて「甘いものは一切避けるべき」?

「糖分は控えるべき」と言われると、チョコレートなどもすべて避けたほうがよいように思えますが、実は選び方次第でチョコレートは健康に大きく貢献してくれます。
カカオポリフェノールの科学的な効果
チョコレートの原料であるカカオ豆には、優れた抗酸化作用を持つ「カカオポリフェノール(主にフラバノール類)」が豊富に含まれています。フラバノールには脳への血流を改善する効果があり、記憶力・集中力・認知機能のサポートが期待されています。また、BDNF(脳由来神経栄養因子)の産生を高める可能性が研究で示されており、うつや不安への予防的効果も注目されています。
活性酸素(体を酸化させ、病気や老化の原因になるもの)を抑える抗酸化作用は、赤ワインやブルーベリーと比べても遜色のないレベルです。疲労回復、精神の安定、動脈硬化予防、高血圧リスク低減などの効果が期待でき、マグネシウムや鉄分などの必須ミネラルも豊富に含まれています。
選び方と食べ方のポイント
ただし、甘みたっぷりの一般的なチョコレートでは糖質やカロリーの摂りすぎになってしまいます。以下の点に注意して選びましょう。
・カカオ成分が70〜80%以上のビターなものを選ぶ(カカオ含有量が高いほどポリフェノールが豊富)
・ホワイトチョコレートはポリフェノールやミネラルが格段に少ないため別物として考える
・1日25g程度(板チョコ約1/4枚)を目安に、数回に分けて食べると血糖値への影響を最小限にできる
・食後や午後の小腹が空いたタイミングに食べると、血糖値の乱高下を抑えやすい
| 食品 | カカオ含有量の目安 | 特徴 |
| ミルクチョコレート | 約30〜40% | 甘みが強く糖質・乳脂肪が多い。ポリフェノールは少なめ |
| ダークチョコレート70% | 約70% | 苦みがあり糖質控えめ。ポリフェノール豊富でおすすめ |
| ダークチョコレート80〜85% | 約80〜85% | さらにポリフェノールが豊富。ひとかけらで十分な効果 |
| ホワイトチョコレート | カカオマス不使用 | ポリフェノールなし。健康効果を期待するなら非推奨 |
チョコレート以外の抗酸化食品も積極的に
ポリフェノールを多く含む食品はチョコレートだけではありません。ブルーベリー・いちご・ぶどうなどのベリー類、緑茶・ほうじ茶、赤ワイン(適量)、玉ねぎ・ブロッコリー・ほうれん草なども優れた抗酸化食品です。彩り豊かな野菜や果物を食卓に増やすことが、ストレスへの抵抗力を高める近道です。
■ おわりに:心と体を整える食生活を 今日からできる3つの実践
日々のストレスやモヤモヤは、短絡的な甘いもののドカ食いで解消するのではなく、セロトニンを増やす食材やバランスの良い食事でケアしていくことが大切です。ここでは、内科医として日常診療の中で患者様にお伝えしている「今日から始められる3つの実践」をご紹介します。
実践1:朝食でセロトニンのリズムを整える

セロトニンは朝の光と食事をきっかけに産生が高まり、夜になると睡眠ホルモン(メラトニン)へと変換されます。つまり、朝食をしっかり食べることが、「昼間の集中力と夜の快眠」の両方を支える土台になるのです。
理想的な朝食は、トリプトファンを含むタンパク質源(卵・納豆・ヨーグルト・チーズなど)+炭水化物(ご飯・パンなど)+ビタミンB6を含む食材(バナナ1本やほうれん草の味噌汁など)の組み合わせです。朝食を抜くとセロトニン産生のリズムが崩れ、日中のイライラや夜の不眠にもつながります。「朝は食欲がない」という方は、まずヨーグルト1個+バナナ半本だけでも始めてみてください。
実践2:腸内環境を整えて「腸脳相関」を味方につける

先ほどお伝えしたように、セロトニンの約90%は腸の粘膜細胞と腸内細菌が関わって産生されます。腸内環境が悪化すると、脳への信号も乱れ、気分の落ち込みや不安感が増しやすくなります。逆に腸内環境が整うと、精神的な安定感も高まるのです。
腸内環境を整えるために有効なのが、食物繊維(善玉菌のエサになる)と発酵食品(善玉菌そのものを補給する)の毎日の摂取です。
・食物繊維が豊富な食品:ごぼう・さつまいも・納豆・海藻・きのこ・玄米・雑穀など
・発酵食品:ヨーグルト・味噌・納豆・ぬか漬け・キムチなど
・水分摂取:腸の動きを活発にするために1日1.5〜2Lの水分(水やお茶)を意識して摂る
便秘や下痢が続いているときは、腸内環境の乱れのサインです。食習慣の見直しとともに、内科への相談も検討してみてください。
実践3:「ストレス食い」のパターンに気づき、代替行動を用意する

ストレスを感じたときに食べてしまうことを「ストレス食い(感情的摂食)」と呼びます。これは意志の弱さではなく、コルチゾール分泌による生理的な反応ですから、自分を責める必要はありません。大切なのは、そのパターンに気づき、食べる前に別の行動を挟む習慣をつけることです。
たとえば、「甘いものが食べたい」と感じたら、まず水を一杯飲む、5分間ストレッチする、ガムをかむ、外の空気を吸うなど、血糖値に影響しない行動をひとつ挟んでみてください。それでもどうしても食べたいときは、前述のダークチョコレートや小さなナッツを選ぶ。こうした「置き換え」を少しずつ積み重ねることで、食の習慣は変えていけます。
睡眠もストレス管理の重要な柱です

睡眠不足はコルチゾールの分泌を高め、翌日の甘いものへの欲求を増強させることが研究で確認されています。また、セロトニンが夜に変換されるメラトニンは、良質な睡眠に欠かせないホルモンです。食事・運動・睡眠の3つは一体で、どれかひとつが崩れると連鎖的に影響し合います。夜のスマートフォン操作を控え、決まった時間に就寝する習慣を心がけましょう。
■内科医として伝えたいこと

「甘いものが止められない」
「ストレスがあると食べすぎてしまう」
こんなお悩みをお持ちの方は、意志の問題ではなく、血糖値・ホルモン・腸内環境・睡眠といった体の状態が食欲に影響している可能性があります。
特に、食後に強い眠気が来る・イライラや気分の落ち込みが続く・慢性的な疲労感がある・甘いものがないと落ち着かないといった症状が続く場合は、血糖値の乱高下や栄養の偏りが背景にあることも考えられます。一度、血液検査で血糖値やHbA1c(過去1〜2ヶ月の血糖の平均値)、脂質、鉄分(フェリチン)などを確認してみることをお勧めします。
食生活の改善は、一夜にして劇的に変わるものではありませんが、「今日の朝食にトリプトファンを含む食材を加える」「間食をナッツに変えてみる」という小さな一歩の積み重ねが、3ヶ月後・6ヶ月後の心身の状態を確実に変えていきます。
ストレス・イライラ・食生活・体重管理でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。