- 2026年7月3日
繰り返すみぞおちや背中の痛み…「慢性膵炎」の原因と放置できない理由

こんにちは。
明石市のJR大久保駅北口すぐ「たなか内科クリニック」院長の田中敏雄です。
「食後になると、みぞおちや背中が重苦しく痛む」
「胃薬を飲んでも、なかなか痛みがスッキリしない」
このような長引く症状にお悩みではありませんか?その痛み、実は胃ではなく、胃の裏側に隠れている「膵臓(すいぞう)」が悲鳴を上げているサインかもしれません。
今回は、繰り返す腹痛の原因となる「慢性膵炎」について、なぜ起こるのか、放置するとどうなってしまうのか、そして進行を防ぐための生活習慣のポイントを内科医の視点から分かりやすく解説いたします。
■1. 膵臓の重要な役割と「慢性膵炎」の怖さ

膵臓は、長さ15cmほどのオタマジャクシのような形をした臓器で、私たちの体の中で2つの非常に重要な役割を担っています。
- 外分泌機能: 食べたものを溶かす強力な消化液(膵液)を出し、消化吸収を助ける役割。
- 内分泌機能: 血糖値を下げる「インスリン」などのホルモンを出し、血糖値をコントロールする役割。
「慢性膵炎」とは、この膵臓に長期間にわたって炎症がくすぶり続け、正常な細胞が少しずつ壊されて硬くなっていく(線維化する)病気です。
この病気の最も恐ろしいところは、「一度壊れて硬くなった膵臓は、元には戻らない(不可逆的な変化)」という点にあります。
■2. 見逃してはいけない症状と進行のサイン
慢性膵炎の症状は、病気の進行度(初期・進行期)によって大きく変化します。
【初期によく見られる症状】
- 腹痛・背部痛: 食後(特に脂っこい食事や飲酒の後)に、みぞおちから背中にかけて鈍い痛みや、差し込むような痛みが数時間から数日続きます。
- 痛む姿勢の特徴: エビのように前屈みの姿勢になると、少し痛みが和らぐ傾向があります。
- 急性増悪(発作): 普段は軽い痛みでも、急激に炎症が悪化すると、耐え難い激痛や嘔吐、発熱を引き起こすことがあります。
【病気が進行したときのサイン】
膵臓の破壊が進むと、痛みを感じる神経まで壊れてしまうため、皮肉なことに「腹痛」は軽くなることがあります。しかし、これは治ったわけではありません。
- 消化吸収障害: 消化液が出なくなるため、栄養が吸収できず体重が急激に減ったり、水に浮くような脂っぽい便(脂肪便)やひどい下痢が続いたりします。
- 膵性(すいせい)糖尿病: インスリンが出なくなるため、ある日突然、糖尿病を発症したり、急激に悪化したりします。
■3. なぜ慢性膵炎になるのか?最大の原因は「お酒」

日本における慢性膵炎の患者数は年々増加しており、特に男性に多く見られます。 その最大の原因は「長年のアルコールの多飲(約65〜70%)」です。お酒が膵臓に負担をかけ続け、慢性的な炎症を引き起こすのです。
その他にも、原因がはっきりしない「特発性」、遺伝的な要因、免疫の異常による「自己免疫性膵炎」、血液中の中性脂肪が異常に高い「高トリグリセリド血症」、膵管の構造的な異常などが原因となることもあります。
■4. 医療機関での診断と治療法

慢性膵炎が疑われる場合、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
- 画像検査: 腹部超音波(エコー)やCT、MRIなどで、膵臓が萎縮していないか、膵管が太くなっていないか、膵臓の中に「膵石(すいせき)」という石ができていないかを確認します。
- 血液検査・糞便検査: 膵臓の酵素(アミラーゼやリパーゼ)の数値や、消化吸収機能の低下度合いを調べます。
【治療の基本】
失われた膵臓の機能を元に戻すことはできないため、「今ある機能を長持ちさせること」と「症状を和らげること」が治療の目的となります。
- 痛みに対する鎮痛剤の処方
- 消化を助けるための「消化酵素薬」の服用
- 糖尿病を発症している場合は、インスリン注射などによる厳密な血糖コントロール
- 膵石が詰まっている場合などは、内視鏡を使った処置や外科手術が必要になることもあります。
■5. 進行を防ぐための「3つの生活ルール」

慢性膵炎と診断された場合、これ以上膵臓を壊さないために、日常生活の改善が絶対に欠かせません。
- 絶対的な「禁酒」 アルコールは膵臓の炎症を直接悪化させます。「少しなら…」という油断が命取りになります。お酒が原因ではない慢性膵炎の方であっても、飲酒は膵臓への追加ダメージとなるため、完全な禁酒が強く推奨されます。
- 徹底した「脂質制限」と「分割食」 脂っこい食事は、膵液を無理に出そうとして膵臓を酷使し、強い痛みを引き起こします。1日の脂質摂取量を30〜40g以下に抑え、揚げ物やバター、肉の脂身などは控えましょう。また、1回の食事量を減らし、1日4〜5回に分けて食べることで、膵臓への負担を軽くすることができます。
- 「禁煙」の実行 タバコは慢性膵炎の進行を加速させるだけでなく、膵臓がんのリスクを跳ね上げる大きな要因であることが分かっています。
■まとめ:慢性膵炎と「膵臓がん」の深い関係

慢性膵炎の患者様は、健康な方に比べて「膵臓がん」を発症するリスクが約10倍も高いと言われています。膵臓がんは「沈黙の臓器のがん」と呼ばれ、早期発見が非常に難しい病気です。 そのため、慢性膵炎の診断を受けた方は、症状が落ち着いていても、半年から1年ごとに定期的な画像検査や血液検査を受け、小さな異変も見逃さないように経過観察を続けることが命を守る鍵となります。
「胃薬を飲んでもみぞおちの痛みが繰り返す」「最近、体重が減って油っぽい便が出る」といった気がかりな症状がある方は、自己判断で我慢せず、できるだけ早く消化器内科にご相談ください。早期に原因を突き止め、正しいケアを始めることが、ご自身の未来の健康を大きく左右します。