• 2026年11月2日

スキルス胃がんの初期症状・発覚きっかけ・進行速度

こんにちは。

明石市のJR大久保駅北口すぐ「たなか内科クリニック」院長の田中敏雄です。

「最近、食後にすぐお腹がいっぱいになる気がする」

「特に理由もないのに体重が落ちてきた」

そのような変化を感じながら、「疲れのせいかな」と見過ごしていませんか?

スキルス胃がんは、通常の胃がんとは異なる性質を持ち、早期発見が非常に難しいがんとして知られています。症状が出にくいからこそ、どのようなサインに注意すべきかを正しく知っておくことが、命を守ることにつながります。本記事では、スキルス胃がんの特徴・初期症状・発覚のきっかけ・治療の実際について、わかりやすく解説します。

■ スキルス胃がんとは?通常の胃がんとの違い

胃壁の深部に広がる「びまん浸潤型」

一般的な胃がんは、胃の粘膜表面にできた腫瘍が内側へ盛り上がるように成長します(腸型・分化型)。一方、スキルス胃がん(硬性胃がん)は、がん細胞が粘膜下層から筋層・漿膜層へと胃壁全体に広がるように浸潤していくのが特徴です。この広がり方を「びまん浸潤型」と呼びます。

がん細胞の周囲に線維化(硬化)が起きるため、胃全体が硬く縮んだような状態になります。患者さん自身は「胃が小さくなった感じ」「少量でもすぐ満腹になる」と感じることがあります。

比較項目通常の胃がん(腸型)スキルス胃がん(びまん型)
発育の仕方粘膜表面に隆起・潰瘍として成長粘膜深部から胃壁全体に広がる
胃カメラでの視認比較的見つけやすい表面変化が乏しく見つけにくい
進行速度比較的緩やか(早期から数年)非常に速い(数ヶ月単位で進行)
発症しやすい年齢・性別60〜70代の男性に多い40〜50代の女性に比較的多い
ピロリ菌との関連強い関連あり関連あるが腸型ほどではない
予後(5年生存率)ステージによるが比較的良好全体的に低い傾向がある

胃カメラでも見つけにくい

通常の胃がんであれば、胃内視鏡検査(胃カメラ)で表面の隆起や潰瘍を視認できます。しかしスキルス胃がんは粘膜の深部で広がるため、表面の変化が乏しく、胃カメラだけでは見つけにくいという大きな問題があります。

胃の壁の硬さや伸展不良(空気を入れても胃が広がらない)などの所見が手がかりになりますが、経験豊富な専門医でも発見が困難なことがあります。バリウム検査(上部消化管造影)でも、胃の変形・硬化を確認できる場合がありますが、確定診断には生検(組織採取)が必要です。

進行が速く予後が悪い

スキルス胃がんは他の胃がんに比べて進行速度が非常に速いとされています。発見時にはすでにリンパ節や腹膜への転移が起きていることが多く、予後(治療後の経過)が悪いがんとして位置づけられています。

通常の胃がん(腸型)が早期から進行がんになるまでに数年を要することが多いのに対し、スキルス型は発見から数ヶ月で急速に進行するケースも報告されています。「胃の調子がおかしい」と感じてから受診までの時間が、予後を大きく左右します。

■ スキルス胃がんの初期症状

初期はほぼ無症状

スキルス胃がんの最も恐ろしい点は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。胃粘膜の表面を傷つけないまま深部へ広がるため、出血や痛みが起きにくく、患者さん自身が異変に気づきにくいのです。

胃の違和感・早期飽満感・体重減少

初期〜中期にかけて現れることがある症状として、以下のものが挙げられます。

・早期飽満感:少量の食事でもすぐに満腹になる感覚(胃の伸展性が失われるため)

・胃の違和感・重さ:みぞおち周辺の漠然とした不快感や張り感

・体重減少:食欲は普通なのに体重が落ちていく(がん細胞が栄養を消費するため)

・胃もたれ・吐き気:食後のむかつきが数週間以上続く

・食欲不振:これまで食べられていたものが食べられなくなる

重要:これらの症状は「疲れ・ストレス・加齢のせい」と思いがちです

数週間以上続く体重減少・早期飽満感・みぞおちの違和感は、必ず消化器内科を受診してください。「胃カメラで異常なし」と言われても症状が続く場合は、CT検査の追加や専門医への紹介を求めることをためらわないでください。

■ 発覚のきっかけ:多くが進行してから

腹部の張り・腹水

スキルス胃がんが腹膜に転移(腹膜播種)すると、腹水(お腹に水がたまる状態)が生じることがあります。お腹が張る・ズボンのウエストがきつくなる・体重が急に増えたように見えるといった変化が起こります。このような段階ではすでにステージIV(最重症)である可能性が高く、根治的な手術が難しい状態です。

急激な体重減少

「最近急に痩せた」という変化は、がんが進行しているサインであることがあります。食欲低下だけでなく、がん細胞が大量のエネルギーを消費すること(がん悪液質)によっても体重は落ちます。短期間(1〜2ヶ月)で3〜5kg以上の体重減少があった場合は、消化器内科での精査が必要です。

健診での偶然発見(まれ)

上部消化管造影検査(バリウム検査)や胃カメラを受けた際に、胃の伸展不良や壁の硬さ・粘膜ひだの変化から疑われ、発見されるケースもあります。ただし、この段階でも早期とは限りません。定期的な健診を継続することが、発見の機会を増やす唯一の方法です。

スキルス胃がんは「症状がないから大丈夫」という判断が最も危険

定期的な健診受診が早期発見への唯一の近道です。特にリスク因子(後述)がある方、家族歴がある方は、年に1回の胃内視鏡検査(胃カメラ)を強くお勧めします。

■ 進行速度はどのくらい早いのか?

スキルス胃がんは、発見から数ヶ月で急速に進行するケースが報告されています。通常の胃がん(腸型)が早期から進行がんになるまでに数年を要することが多いのと比べると、スキルス型の進行の速さは際立っています。

腹膜播種(腹膜全体への転移)が起きると手術が困難になるため、いかに早い段階で発見できるかが予後を左右します。「胃の調子がおかしい」と感じたときに、すぐに行動できるかどうかが重要です。

また、スキルス胃がんはリンパ節への転移も起きやすく、発見時にすでに複数のリンパ節が腫れているケースも少なくありません。発見から治療開始までの時間を短縮することが、治療効果に直結します。

■ リスクの高い人の特徴

若い女性に多い(40〜50代)

スキルス胃がんは、通常の胃がんが60〜70代の男性に多いのとは対照的に、40〜50代の比較的若い女性に発生しやすいという特徴があります(胃がん全体の中でのびまん型の割合は、若い世代・女性で高い傾向があります)。「自分は若いから大丈夫」「女性だから安心」という油断は禁物です。

ピロリ菌感染・家族歴・血液型

・ヘリコバクター・ピロリ菌の感染:胃がん全般のリスク因子です。スキルス胃がん(びまん型)は腸型胃がんに比べてピロリ菌との関連がやや弱いとされていますが、感染歴がある場合は除菌治療を行い、その後も定期的な胃カメラを継続することが大切です。

・家族歴:親・兄弟にスキルス胃がん(びまん型胃がん)の方がいる場合は、遺伝的なリスクが上昇します。CDH1遺伝子変異を背景とした遺伝性びまん性胃がんの家系も存在するため、若い段階からの定期検査が特に重要です。

・血液型A型:一部の統計でA型の方に多いとされる報告がありますが、確定的なエビデンスではなく、血液型のみでリスクを判断する根拠にはなりません。

その他のリスク因子

・喫煙:胃がん全般のリスク因子。禁煙により発症リスクを下げられます

・塩分の多い食事・塩漬け食品の過多:胃粘膜へのダメージが積み重なることでリスクが高まります

・野菜・果物の摂取不足:抗酸化物質の摂取が少ない食生活は胃がんリスクと関連するとされています

■ 治療法と生存率の現状

ステージ別の治療方針

ステージ主な治療補足
ステージI外科手術(胃切除)が第一選択スキルス型では術後補助化学療法も検討
ステージII〜III手術+術前・術後の化学療法胃の全摘出が必要なケースが多い
ステージIV(腹膜播種あり)化学療法(抗がん剤)が中心腹腔内温熱化学療法(HIPEC)が行われるケースも
HER2陽性例(全ステージ)分子標的薬(トラスツズマブ)を化学療法に追加HER2検査で陽性と判明した場合
PD-L1陽性・MSI-High例免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブなど)一次・二次治療として使用が広がっている

予後と5年生存率

残念ながら、スキルス胃がんは発見時にステージIVであることが多く、5年生存率は一般的な胃がんよりも低い傾向があります。日本全体の胃がん全体の5年生存率が約65〜70%とされるのに対し、スキルス胃がん(びまん型)のステージIVでは10%を下回ることも珍しくありません。

しかし、医療の進歩により治療の選択肢は年々広がっています。分子標的薬・免疫療法の登場により、従来の化学療法だけでは反応が乏しかったケースでも、一定の効果が得られるようになってきています。早期発見・早期治療ができた場合の予後は大きく改善されており、ステージIでの発見であれば根治を目指せます。

■ スキルス胃がんを疑ったら:受診・検査の流れ

組み合わせが重要な3つの検査

検査目的特徴
上部消化管内視鏡(胃カメラ)粘膜の変化・胃壁の硬さ・伸展不良を確認生検(組織採取)で確定診断に近づける
CT検査胃壁の肥厚・リンパ節転移・腹膜播種・遠隔転移の評価全身の病変を一度に把握できる
生検(バイオプシー)疑わしい部位から組織を採取し病理診断HER2・PD-L1・MSI検査も同時に実施することが多い

「胃カメラで異常なし」と言われても症状が続く場合は、CT検査も組み合わせて評価することが重要です。スキルス胃がんは胃カメラだけで確定できないケースがあるため、複数の検査を組み合わせることが診断精度を高めます。

気になる症状があればまず内科・消化器内科へ

「変だと思うけれど、どこに行けばいいかわからない」という方は、まずかかりつけ医・内科・消化器内科に相談してください。症状を丁寧に問診し、必要な検査・専門病院への紹介を判断します。自己判断で「大丈夫だろう」と受診を先送りにすることが、最も避けるべき行動です。

■ さいごに:「見つけにくいがん」だからこそ、知識と行動が命を守る

スキルス胃がんは「症状が出にくい・見つけにくい・進行が速い」という三重の難しさを持つがんです。しかし、この「難しさ」は知識を持ち行動することで、ある程度補うことができます。

「自分は大丈夫」という思い込みを外してほしい

日常診療の中で、スキルス胃がんの患者様と向き合うたびに痛感するのが、「もう少し早く来てくれていれば」という思いです。「若いから」「健診で何も言われなかったから」「痛みがないから」——こうした理由で受診をためらい、気づいたときにはすでに腹膜への転移が起きているというケースが少なくありません。

特に40〜50代の女性の方には、強くお伝えしたいことがあります。スキルス胃がんは、まさにこの年代・この性別に比較的多いがんです。「更年期のせいで食欲が変わった」「育児・仕事の疲れで胃が弱くなっただけ」と自己解釈しがちな症状が、実はスキルス胃がんのサインであることがあります。何週間も続く早期飽満感・体重減少・みぞおちの違和感は、放置しないでください。

定期健診は「お守り」ではなく「命綱」

胃がんの定期検診(バリウム検査または胃カメラ)は、多くの自治体で40歳以上を対象に年1回の受診が推奨されています。バリウム検査はスクリーニングとして有効ですが、スキルス胃がんの発見という点では胃カメラのほうが優れています(胃壁の硬さや伸展不良の評価、および生検が可能なため)。

ピロリ菌の感染歴がある方・家族にスキルス胃がんや胃がんの方がいる方は、年1回の胃カメラを積極的に受けてください。「去年受けたから今年は大丈夫」という考えではなく、継続的に受けることが大切です。スキルス胃がんは数ヶ月単位で進行することがあるため、空白の1年が命取りになりえます。

診断を受けたあとの方へ——あきらめないでほしい

もし検査でスキルス胃がんと診断された方、またはそのご家族がこの記事を読んでいるとしたら、一言お伝えしたいことがあります。

スキルス胃がんは確かに難治性のがんです。しかし、医療は着実に進歩しています。HER2陽性であれば分子標的薬が有効であることがわかっており、PD-L1陽性やMSI-High(マイクロサテライト不安定性が高い)の例では免疫チェックポイント阻害薬が著明な効果を示すことが報告されています。診断時に「治療法がない」と言われても、セカンドオピニオン(他の専門医に意見を求めること)を活用し、がんゲノム医療(遺伝子パネル検査)で自分のがんの弱点を探すという選択肢も存在します。

また、緩和ケアは「治療をあきらめること」ではなく、「治療中の生活の質を守ること」です。痛み・吐き気・食欲不振・精神的な不安を和らげながら、最善の治療を続けることができます。「スキルス胃がん」という診断イコール絶望ではありません。一人で抱え込まず、主治医・緩和ケアチーム・家族・支援団体と連携しながら、歩んでいただきたいと思います。

内科医として伝えたいこと

私が患者様に常にお伝えしているのは、「体の声を無視しないでほしい」ということです。医学的に「異常なし」と言われても、自分が「何かおかしい」と感じるなら、その感覚を大切にしてください。必要であれば別の病院・別の検査を受けることをためらわないでください。

当院では、気になる症状がある方の初期評価・問診を行い、必要に応じて専門病院への紹介状の作成をいたします。「変だと思うけれど、どこに行けばいいかわからない」「以前受けた検査で異常なしだったがまだ不安」という方も、お気軽にご相談ください。一緒に適切な検査・対応を考えてまいります。

たなか内科クリニック 078-935-1181 ホームページ