- 2026年7月6日
その胃痛や下痢、実はお薬のせいかも?知っておきたい「薬剤性消化管障害」

こんにちは。
明石市のJR大久保駅北口すぐ「たなか内科クリニック」院長の田中敏雄です。
風邪や頭痛、あるいは持病の治療でお薬を飲み始めた後に、「なんだか胃がキリキリする」「お腹が張って下痢気味だ」と感じたことはありませんか?
実は、私たちが日常的に服用しているお薬の中には、胃や腸、食道といった消化管に思わぬダメージを与えてしまうものがあります。
「一緒に胃薬を飲んでいるから大丈夫」と安心されている方も多いのですが、お薬による胃腸のトラブル(薬剤性消化管障害)は、単に胃酸だけが原因とは限りません。
今回は、知らず知らずのうちに胃腸を痛めつけてしまわないために、特に注意しておきたいお薬の種類と、その対処法について内科医の視点から解説いたします。
■1. 痛み止め(NSAIDs)や血をサラサラにする薬の落とし穴

お薬による消化管トラブルの中で最も多いのが、「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)」と呼ばれる痛み止め・熱冷ましや、血液をサラサラにする「アスピリン」によるものです。
これらのお薬は、痛みの原因物質を抑える一方で、胃の粘膜を守るバリア機能まで一緒に低下させてしまいます。さらに、お薬の成分そのものが直接胃の粘膜を刺激するため、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こしやすくなるのです。
【特に注意が必要な方】
- 65歳以上の方
- 過去に胃潰瘍や十二指腸潰瘍になったことがある方
- ピロリ菌に感染している方
- ステロイド薬や、他の血液をサラサラにする薬を一緒に飲んでいる方
リスクが高い方には、胃酸の分泌を強力に抑えるお薬(PPIなど)を一緒に処方して胃を守る対策をとります。しかし、症状がなくても水面下で胃の粘膜が荒れていることがあるため、これらのお薬を長期間飲まれている方は、年に1回の定期的な胃カメラ検査で胃の状態を確認することが非常に大切です。
■2. 抗生物質と「骨粗鬆症のお薬」によるトラブル
痛み止め以外にも、身近なお薬が胃腸に影響を与えることがあります。
【抗生物質(抗菌薬)】

細菌をやっつける抗生物質は、腸の中にいる「善玉菌」まで減らしてしまい、腸内環境(腸内フローラ)のバランスを崩してしまうことがあります。その結果、下痢や腹痛、お腹の張りを引き起こします。 稀にですが、腸内環境の乱れに乗じて特定の悪い菌(クロストリジウム・ディフィシル)が異常増殖し、「偽膜性大腸炎」という重い腸炎を引き起こし、水のような激しい下痢や発熱を伴う危険な状態になることもあるため注意が必要です。
【骨粗鬆症のお薬(ビスホスホネート製剤)】

骨を強くするお薬の中には、食道の粘膜を強く刺激するものがあります。飲み方を間違えると食道炎や食道潰瘍を引き起こす恐れがあるため、「起床後すぐに、コップ1杯以上の多めの水で飲む」「飲んだ後30分は絶対に横にならず、体を起こしておく」といった、厳格な服用ルールを守ることが極めて重要です。
■3. その他のお薬による影響と「サプリ・漢方」の注意点

消化管だけでなく、お薬が肝臓や膵臓(すいぞう)に負担をかけるケースもあります。
- 鉄剤や便秘薬の影響: 貧血治療の鉄剤は、吐き気や便秘を起こしやすく、便が真っ黒になる特徴があります。また、センナなどの刺激が強い便秘薬を長年使い続けると、腸の神経がダメージを受け、かえって腸の動きが悪くなることがあります。
- 薬剤性肝障害: 処方薬だけでなく、市販の風邪薬や鎮痛薬、そして「体に良さそう」と思われる漢方薬やサプリメント、プロテインなどが原因で、肝臓に炎症が起きることがあります。ひどい倦怠感や黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)が出た場合は要注意です。
- 薬剤性膵炎: 非常に稀ですが、一部の利尿薬や血圧の薬、てんかんの薬などが原因で膵臓に炎症が起きることがあります。新しいお薬を始めてから強い腹痛や吐き気が出た場合は、この可能性も疑います。
■まとめ:お腹の不調を感じたら、お薬手帳を持ってご相談を

お薬による消化管や肝臓・膵臓のトラブルは、原因となっているお薬を特定し、中止したり別の種類に変更したりすることで、多くの場合改善に向かいます。
「新しいお薬を飲み始めてから、なんだか胃の調子が悪い」
「ずっと下痢が続いている」
こんな症状がある方は、「薬のせいかもしれない」と一人で我慢したり自己判断で服用をやめたりせず、必ず「お薬手帳(または飲んでいるお薬のリスト)」をご持参の上、かかりつけの医師にご相談ください。
患者様が安心してお薬による治療を続けられるよう、しっかりとお腹の状態をサポートさせていただきます。